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 走ったからだけじゃないドキドキが混ざっててすごい苦しい。  耀くんが心配気な顔で僕を覗き込みながら背中を撫でてくれる。 「あの、あのね、土曜日、旅行、うち…」 「え?」  耀くんの眉間に皺が寄った。  ああ、ちがうちがう 「あ、ちがっ、えっと、いとこがね、ケガして、行くはずだった旅行、うちの僕以外の3人で行くことになって…」 「え、え、え、なに、てことは碧、留守番?」  僕も慌ててるけど、耀くんも慌ててる。 「…うん、そう。僕だけ、留守番。土曜日と日曜日」    今度こそちゃんと伝わったかな、と思いながら耀くんを見上げた。  耀くんは珍しく少し混乱しているような顔をしてて、何度か瞬きをして、そして僕を見て笑った。  背中を撫でていた腕に、ぐいっと肩を抱かれた。 「それは、泊まりの誘いだって思って、いいの?」  耳元で低く問われてぞくりとした。  至近距離にある、日に焼けた耀くんの精悍な顔を見返す。  どきどきしながら、小さく頷いた。  その、頷いた僕を見た耀くんが少し目を見張って、それからすごく嬉しそうに笑った。  ずっと見ていたくなるような、綺麗な綺麗な笑顔。 「それを俺に早く伝えたくて、走って来てくれたの?」  僕はまた、うん、と頷いた。 「うわ、ちょっとヤバいよ、碧。なにその可愛さ」  僕の肩を抱いて、くすくす笑いながら耀くんが歩き出した。明るい駅前から遠ざかる。耀くんが少し僕を抱き寄せた。 「もうほんと、今年の誕生日ヤバい。朝も夜も碧が可愛すぎる」  夢でも見てんのかな、と耀くんが呟いた。 「…夢じゃ、ないよ?耀くん」  耀くんの背中に回した腕。ブレザーをくいっと引っ張った。  そして、上目に耀くんを見上げる。 「だから…、土曜日から、うち、来て…?」  甘ったれた声と言い方になった自覚があった。 「う…わ…」  耀くんの足が止まる。  僕をじっと見る耀くんの目元が赤く染まっていく。  そしてその顔を片手で覆った。 「ちょっ…、碧。お前その破壊力エグいよ?」  目から下を手で覆ったまま、そう言った耀くんの視線が揺れる。  そして再び僕を見て、深呼吸を一つした。 「…碧、ちょっと手、貸して」  耀くんが顔から手を離して、その手を僕の方に出した。  なんだろう、と思いながらその手に手を重ねる。  耀くんは僕の手を取って、ブレザーの中の耀くんの胸に当てた。 「…!」  僕は弾かれたように耀くんを見上げた。  すっごいドキドキしてる…っ  耀くんが僕の耳元に顔を寄せた。 「土曜日に、この責任取ってもらうからね」  覚悟しといて、と低く甘い声が言う。    耀くんの声を浴びた耳から身体中に熱が伝わっていく。  急激に高まっていく鼓動が苦しくて息が上手くできない。  耀くんが僕の手を胸から離した。そして僕の頭をゆっくり撫でる。 「こんなすごい誕生日プレゼントもらえるなんて、ほんと驚いたよ」  くすっと笑った耀くんが僕を覗き込んだ。 「ありがとう、碧」  そう言った耀くんを見上げて僕は首を振った。 「…僕、なんにもあげてないよ…?」  たまたま留守番をすることになっただけ。  耀くんが僕を誘導して暗がりに入る。 「あんな誘い文句をくれたのに?」  建物の陰に連れ込まれて抱きしめられた。  大きな手が顎を(すく)って唇を塞ぐ。  キスは久しぶりでくらくらする。  最後にちゅっと唇を吸われて息をついた。  少し足元がふらついて耀くんのブレザーにしがみつく。  耀くんはもう一度僕をぎゅうっと抱きしめた。  
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