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電車がスピードを落として、耀くんたちの高校の最寄駅に着いた。
「ほんとだ。なんか制服だらけ」
近隣の高校と、ちらほらと中学の制服。男女入り混じってみんな同じ方向に歩いて行く。
よかった、女の子ばっかりじゃなくて
僕の前を歩いている敬也の腕を、えりちゃんがくいっと引いた。
「ねぇ敬ちゃん知ってる?陽菜って結構人気あるのよ?」
敬也の頬がじわっと赤くなる。えりちゃんが敬也の背中をぽんぽんと叩いた。
「うわー、取り囲んでるねー。やっぱ右側が混んでるー」
さぁ行くよー、とちかちゃんが言う。
「あ、私もここにいていい?」
と萌ちゃんが言った。
「え、うん。いいよ?もちろん」
と僕が言うと、萌ちゃんはにこっと笑って下を向いた。
3人で人の隙間をぬって、どうにかフェンスまで辿り着いた。
横から見る位置。正面はいっぱいだったから最初から諦めた。
ここで見えるかどうかはフォーメーション次第だ。
グラウンドに生徒が出てきてる。
4色に分かれて、看板のかかったひな壇に登っていく。看板も大きくてすごく上手い。文化祭のさっちゃんとこのお化け屋敷を思い出した。
周りの空気がざわりと波立った。
校舎の方から他とは違う集団がやって来るのが見えた。
黒い、長めの学ラン。
赤い襷とハチマキが風に靡いている。
白い手袋をはめながら歩いてくる、スタイルのいい長身。
思わず息をのんだ。
耀くん…っ
すっごい、すっごい、すっごい格好いい…!
カシャンと目の前のフェンスを掴んだ。
耀くんが、ふっと視線を上げた。
あ
目が合った
耀くんも「あ」というような顔をして、そしてふわりと微笑んだ。
キャーッと黄色い歓声が上がる。
「見た?見た?谷崎くん笑ったよ!」
「ヤバい!ヤバい!めっちゃカッコいいー!!」
「こっち見て笑ったってことは、ここらへんにいるの?彼女」
「探してる場合じゃないよ。今は谷崎くん見なきゃ!」
「どこに並ぶんだろ。お願い!こっち側で!!」
僕も彼女たちと同じように、少しでもよく見える所に立ってほしい、と祈った。
一旦集まっていた赤い襷の集団が、それぞれの立ち位置に散っていく。グラウンド全体を使うんじゃなくて、それぞれの色のひな壇の前で行うスタイルらしい。
お願い!耀くん!右側で!!
固唾を飲んで耀くんの動向を見つめた。列は縦に4列。
やった!一番右!
1列目は真ん中に1人。2列目はその左右。そして3列目の一番右に耀くん。
来年はもしかしたら一番前だったりするのかな。
演舞のリハーサルは赤組からだ。
後ろに手を回した、真っ直ぐな美しい立ち姿。
さっきまできゃあきゃあ言ってた女の子たちが、シンとして見入ってる。
和太鼓の音が響く。
一番前の男子生徒の、大きな掛け声。
それに続けて、掛け声とともに演舞が始まる。
空手の型を彷彿とさせるようなシャープな動き。
その動きに合わせて、長い襷とハチマキがひらひらと宙に舞う。
指先まで、ビシッと伸びた白い手袋。
前を見据える鋭い眼差し。
目が、離せない。
格好いい耀くんをみんなに見てほしくて、誰にも見られたくない。
視力が5.0ぐらいほしい。
カシャカシャとスマホで写真を撮る音がする。
目の端に動画を撮ってる気配も感じる。
でもそれどころじゃない。
この目にしっかり記録したい。
一瞬でも見逃したくない。
全部、全部覚えていたい。
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