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最後にどどん!と太鼓が鳴って、全員の動きがピタッと止まった。
数秒後、サッと元のフォーメーションに戻って深く礼をした。
大きな拍手がグラウンドからも、フェンスの外からも湧き上がった。
目が痛くてじわりと視界が潤んだ。
たぶん、また僕は瞬きを忘れていた。
目をパチパチさせながら耀くんを見つめる。演舞が終わったからひな壇の前まで下がるらしい。その、方向転換の一瞬、耀くんが僕の方を見てくれた。
また僕の周りがぶわっと色めき立った。
谷崎くんこっち見たよって、みんな嬉しそうにしてる。
でもごめんね。耀くんは僕を見てるんだ。
こんなにたくさんの、フェンスにしがみついたり、必死で背伸びしてる子がいるけど、耀くんは僕のなんだ。
ヤバい
僕、性格悪くなってきてる
赤組から順に応援合戦が行われていって、耀くんたちは真っ直ぐに立って演舞を見つめていた。その横顔がすごく綺麗で、僕は身じろぎもせずに見つめ続けた。
全部の組の演舞が終わって、前に先生が立って話が始まった。その、先生の方を見ている耀くんのことも、僕はずっと見ていた。
ぽん、と肩に手を置かれてびくっとした。
「見れたか?」
依くんがニカッと笑って小さな声で訊いた。僕は、うん、と頷いた。
依くんはうんうんと頷いて、グラウンドの方を見た。
「お、終わったみたいだぞ」
そう言って、中に向かって手を振った。
あ、耀くん気付いた。
近くにいた人に声をかけた耀くんが、こっちに振り返る。
わ、わ、わ
うそ、走ってくる!ハチマキをひらひらさせながら。
鮮やかすぎる、赤と黒。
周り中が息をのんだ。
耀くんがフェンスの前でザザッと足を止めて、はらりとハチマキが肩に落ちた。
僕を正面から見下ろす耀くんの頬を汗が流れた。
「碧、依人。俺はまだ帰れないけど、陽菜と桜は帰れるはずだから」
フェンスにかけた僕の手にさりげなく触れながら、微笑んで話しかけられても僕は声も出せない。
耀くんは僕の横の依くんに視線を移した。
「おけおけ。じゃ、ちょっとあいつら待つわ」
依くんが返事をして、ちかちゃんやえりちゃんも耀くんに手を振っていた。
もう一度ちらりと僕に視線を送って、耀くんは「じゃ、気を付けてな」と言って走って行った。
息をつめていた周りの女の子たちがキャーッと叫んだ。
「ヤバいヤバいヤバい!!カッコいい!カッコいい!!すっごい近かった!ねー!」
「えっ、このへんの皆さん、谷崎くんのお友達、なんですか?」
「えー、いいな、いいなー」
女の子たちが取り囲んでくる中、依くんが僕の肩に腕を回して、顔を隠すようにしながら歩き始めた。敬也は僕の横を歩いている。えりちゃんがちかちゃんと萌ちゃんを守るように、2人の肩に手をかけながら足速に進む。
「さ、てと、どこで待つか。あの言い方だと15〜20分ってとこか?」
「そうっすねー。いやでも歓声すごかったっすね」
依くんと敬也が僕の両側で話してる。僕はまだドキドキしてて喋れない。
「カッコよかったー。見に来てよかったー」
ちかちゃんが嬉しそうな声で言ってる。なんとなく今までと声が違う気がする。
「陽菜とさっちゃんも頑張ってたわよ。探すの大変だったー」
あははと笑いながらえりちゃんが言った。
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