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校門の前は女の子たちでいっぱいだったから、少し駅寄りの廃業してるお店の前で待つことにした。依くんが写真を撮って、姉たちに「ここ」と送っていた。
依くんがどんと構えているせいか、僕たちを耀くんの友達だと知った女の子たちは遠巻きにしてるだけで話しかけては来なかった。
「見て見て、碧。結構キレイに撮れたでしょー?」
ちかちゃんがさっきの耀くんの動画を見せてくれた。
「うん。上手に撮れてるね」
えへへと笑うちかちゃんに、僕は改めて向き合った。
「ちかちゃん、連れて来てくれてありがとね」
僕がお礼を言うと、
「あ、えっとね、違うの、碧。言い出したのは萌ちゃんなの」
ちかちゃんは顔の前で両手を横に振りながらそう言った。
「え?」
ちかちゃんが、えりちゃんの後ろにいた萌ちゃんを指差した。
「萌ちゃんがね、碧を耀くんとこ連れてってあげたらどうかなって言ったの、ね」
うん、と萌ちゃんが小さく頷いた。
「そうなんだ。ありがとう、萌ちゃん」
ううん、と萌ちゃんが首を横に振った。
「…碧、まだ目赤いね。瞬きもしないで見てたもんね」
萌ちゃんがくすっと笑いながら言った。どれどれ、とえりちゃんが僕の顔を見た。
「ほんとだー。赤いー。そんな真剣に見てたの?まぁ見るかー」
格好良かったもんね、と笑ったえりちゃんが僕の頭を撫でた。
「お待たせー」
姉とさっちゃんが手を振りながらやって来た。依くんが「おー」と振り返す。
「赤組の方すごかったけど、フェンスの外。見れたの?」
姉が僕たちの方を見て言った。
「見れたよー。ちか、動画撮っちゃった」
ちかちゃんがえへへと笑って、僕は姉に頷いた。
「そっか、良かったね」
じゃ、帰ろっかー、と言って駅に向かって歩き始めた。
学校の方を振り返ってみたら、まだいっぱい女の子たちがうろうろしていた。
「あれ、半分以上は耀ちゃん見に来た子みたいよ」
さっちゃんがボソッと言った。
「通って来る時話してた。「谷崎くんまだかなー」って。そう簡単には落ち着かないね、やっぱり」
眉を歪めたさっちゃんが、よしよしと僕の背中を撫でてくれた。
「しょうがないよ。耀くんだし」
「うわ、恋人の余裕だ」
さっちゃんがそう言って笑う。
「でもそう思ってないと、しんどくなっちゃうもんね」
「うん…」
平気なわけじゃないけど、考えすぎないようにしてる。
早くなった日暮れで、あたりはもう薄暗くなってきていた。
やっと、木曜の夜になった。
明日1日頑張れば土曜日。
土曜日から、耀くんはうちに来る。
みんなの推しの耀くんを、僕の家に閉じ込める。
そして僕の、僕だけの耀くんにするんだ
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