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「耀くん、すっごい格好よかったよ」
夜の電話、何よりそれを伝えたかった。
『ちかちゃんのメッセージで来るかなとは思ったけど、最前列にいるとはね』
「正面はもういっぱいだったから、横からに位置に賭けたんだ。耀くんが右側でほんと良かった」
へへっと笑いながら言うと、電話の向こうで耀くんも笑う気配がした。
『なにげに碧は引きが強いからなあ』
そう言われて、
「耀くんと付き合ってるしね」
なんて応えてみた。
『それは引きが強いのうちに入るの?面倒事が増えてマイナスなんじゃない?』
自嘲気味な耀くんの声。
「耀くんと付き合ってマイナスなことなんて何もないよ」
『碧…』
「あるとしたら、僕の性格が悪くなってきてることぐらいだよ」
『碧の性格?』
耀くんが不思議そうな声で訊き返してくる。
「今日も、女の子いっぱいいたでしょ?みんな耀くんを見てた。耀くんが僕に気付いて笑ってくれた時、僕の周りの女の子たちがキャーッて言ってるのを訊きながら、耀くんは僕のだからごめんねって思っちゃった」
『そっか…』
と耀くんが笑みを含んだ声で応えた。
「耀くんこそいいの?こんな感じ悪い僕で」
『俺は、碧じゃなきゃ駄目だから』
鋭い刃物がサックリと胸に突き刺さるように、耀くんの言葉が入ってきた。
「…耀くん」
『うん?』
「今すぐ土曜日にして?」
『そうだね、俺もそうしたい』
「金曜日は後回しにして、先に土日がいい」
『後回しは考えなかったな』
耀くんが笑っている。
やっぱりこういう下らない話をしてる時が、付き合ってるなって感じがして好き。
いつまでもいつまでも耀くんの声を聞いていたくて、でもそういうわけにもいかなくて、今日も渋々電話を切った。
カレンダーは「もう1日あるよ」って言ってくるし、時計は「まだ木曜だよ」って言ってくる。
ほんと腹立つ。
学校の周りにいっぱいいた女の子たち。あの中をどうやって耀くんは帰って来たんだろう。
フェンス越しに、ほんの少し触れた白い手袋の感触。
頭の中にしっかりと刻まれた、赤と黒の色彩。
鮮やかな、僕の耀くん。
思い出したら、もう何も手につかない。
夢の中でも見たいな
でも目を閉じると夕方の耀くんの姿が再生されて、ドキドキして眠れない。
耀くんと付き合うマイナス面は、睡眠不足になることかもしれない。
授業中眠くなっちゃうからちゃんと寝なきゃ。
それにきっと、
明日の夜はもっと眠れない
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