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両親の部屋に布団を取りに行ったついでに、耀くんが明日9時前に来るって母に伝えた。
「まぁ、挨拶?律儀ねぇ耀くん」
って母は笑ってた。
「本当に優しい、優しすぎるくらい優しいお兄ちゃんよね、耀くんて」
母がそう言って、僕はうんって頷いた。
お兄ちゃん、なんて思ってないけど
でも今は、とりあえずそういうことにしておく。
やっぱりよく眠れないまま朝を迎えてしまって、目が覚めた時からすでにドキドキしてる。
耀くんと会う日はいつもそう。付き合い始めてだいぶ経つけど慣れない。
母と朝食の準備をしていると、テレビで天気予報が流れた。
「降水確率40%は微妙ね。洗濯物室内干しにしとこうか」
「そうだね」
取り込み忘れる気しかしないから、雨予報はありがたい。
姉と父が眠そうに起きてきて、朝ご飯を食べながら少しずつ覚醒していった。
朝食の洗い物が終わった頃にスマホが鳴って、耀くんから「そろそろ行ってもいい?」とメッセージがきて「いいよ」って返信した。
「お母さん、耀くん来るって」
変に緊張してるから、声が喉に引っかかりそうになる。
「はいはい。耀くんも朝強いわよね。生活リズムが合ってるのはいいわよね」
母が荷物の点検をしながら言った。
父と姉もバッグを持ってリビングに下りてきた頃、玄関チャイムが鳴った。
耀くん来たっっ!
「やだ、耀ちゃんもう来たの?」
「泊まるからちゃんと挨拶したいんだって」
「ほー。相変わらずしっかりしてるなあ」
そんな会話が聞こえる中、急ぎすぎないように玄関に急いだ。
カチャッとドアを開けると、やや緊張した面持ちの耀くんが立っていた。
「おはよ、碧」
「おはよう、耀くん。いらっしゃい」
僕が「上がって」と言うと耀くんは「ちょっと待って」と言って大きく深呼吸をした。
「やばい。めちゃくちゃ緊張してる」
はは、と乾いた声で笑って、もう一度深呼吸をした。
「よし、行く」
そう言った耀くんが、前を見据えてうちに上がった。
…やばい。今日も耀くんがすっごい格好いい
リビングに入ると3人が一斉にこっちを見て、僕までびくっとした。
「おはようございます。今日はお邪魔します」と頭を下げた耀くんに母が、
「おはよう、耀くん。今日明日、碧をお願いね」
と言った。
「え…」
耀くんが固まってる。
姉は「あらあら」みたいな顔をしてる。
父は「ふーん」な表情だ。
僕はなんか上手く息ができない。
「碧はね、たいていのことはできるし、一晩くらい1人でも大丈夫だろうとは思うけど、でも耀くんがいてくれたら安心だから」
母はそう言って、耀くんの肩をぽんぽんと叩いた。
耀くんが目を見開いて母を見た。
「あ、の…、俺、別に何もできないですけど…。でも、はい。分かりました」
途中視線を泳がせた耀くんは、でも最後はしっかりと母を見て頷いた。
その視線を受けて母は笑顔を見せ、父は頷いている。
…大丈夫?大丈夫だよね?
どきどきしながらみんなを見渡すと、母が時計を見て「そろそろ出発しましょうか」と言った。「そうだな」と言った父は特にいつもと変わりはないように見える。
姉が僕の肩に手をかけて、
「じゃ、あたしお姫様になってくるから。王子がいないけど」
と言って笑った。
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