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「行ってらっしゃい」と手を振って、玄関のドアを閉め鍵をかけると、後ろで耀くんが大きなため息をついた。  そしてその場に膝をついて座り込んだ。 「…やっばい。マジで、めちゃめちゃ緊張した…!頭ん中真っ白になりかけた。碧、俺大丈夫だった?なんかよく覚えてないんだけど…」  見上げてくる耀くんが、いつもと違って自信なさげでなんかかわいい。 「だいじょぶ、耀くん。2人ともうんうんって頷いてたし」  僕も耀くんの前に膝をついて、大きな身体を抱きしめた。 「普段は平気だけど、改めて挨拶とかするとすっごい緊張するな」  ため息混じりに低い声で耀くんが言う。 「今日はお父さんもいたしね」 「うん。ほんと、心臓が口から出そうだったよ」  笑いながらそう言って、長い腕で僕を抱きしめてくれる。 「でもさ、ちゃんとしときたかったんだ。俺ほんとに、碧とずっとずっと一緒にいたいから」 「…耀くん…」  声が真剣で大きく鼓動が跳ねた。 「コソコソしたり嘘ついたり、そういうのじゃなくて、ちゃんと碧を幸せにしたいんだよ。まあ、どこまで言うかはまだ分かんないけど」  全部言えばいいってもんでもないしね、と言った耀くんが至近距離で僕を見つめる。  その綺麗な顔が、水鏡に映ったように揺れた。 「…泣き顔も、堪んなく可愛いんだよなあ。俺の碧は」  僕の頬に優しくキスをして「立てる?」と訊くから、うん、と頷いた。  ずずっと鼻を啜りながら、耀くんの腕を掴んで立ち上がってそのまま抱きついた。 「…耀くん。ずっと、って…ずっと?」  変な訊き方してる。子どもみたいな。 「そう、ずっと。嫌?」  抱きついたまま頭を振った。髪の毛が耀くんにぱたぱたと当たる。 「やなわけない。僕もずっと一緒にいたい。…僕も耀くんを幸せにしたい…」 「碧が俺と一緒にいてくれたら、何があっても俺は幸せだよ?」  僕を抱きしめる力強い腕。この腕の中にずっとずっと…。 「…一生大事にするって、この前言っただろう?」  耀くんが僕の髪にキスをする。 「あれ、誇張なんかじゃないからね。咄嗟に出た言葉だけど、心からの気持ちだから…」  俺は本気だからね、って耳元で甘く囁く。  身体中が心臓になったみたいにどくどくと脈打ってくる。  耀くんの大きな手のひらが、僕の頭を、背中をゆっくりと撫でていく。  僕は耀くんの背中に回した手で、耀くんの服をぎゅっと握った。 「…ねぇ、碧の部屋、行ってもいい?キスしたら、たぶん俺止まれない…」  少し掠れた声が、気持ちの昂りを伝えてきて胸が苦しい。  声が出せなくて、うん、うんと頷いて応えた。  耀くんに肩を抱かれて、僕は耀くんの腰に腕を回して、外を歩く時よりもべったりと寄り添って階段を上った。足元がふわふわして、自分家の階段なのに踏み外しそうになって、耀くんが僕を支えてくれた。  耀くんが僕の部屋のドアを開けた。  部屋に入りながら抱きしめられて、僕も耀くんを抱きしめた。  数秒間見つめ合って、口付けを交わした。  キスをして、キスをして、キスをして、理性のネジをゆるめていく 「…耀くん…」  合わせた唇は濡れている。 「ん?」  耀くんも息が上がってきてる。 「…はやく、抱いて…っ」
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