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 3回抱き合ってお腹が空いて、そういえばお昼だねって笑い合った。 「シャワー浴びよう。ちょっとすごい」  滴の垂れる前髪をかき上げる耀くんが、めちゃくちゃ格好いい。  僕はぼんやりしながらそれを見上げていた。  まだ身体が火照ってる。 「抜くよ」 「あ…っ」  ぬるい液体がどろりと流れ出る感触。  それをいつも耀くんが丁寧に拭いてくれる、…んだけど。 「や…んっ、あっ、…ようくん…っ」  そこに指を入れられることに違いはないから、どうしたって感じてしまう。 「もうちょっとだから我慢して、碧」 「あ…、だっ…て…」  声が出ちゃうのと脚が跳ねるのは許してほしい。 「あんまり可愛い声出されると止められなくなるよ?」  くすっと笑いながら流し見られて、とくんと胸が鳴った。  それも、いいな  そう思ったけれど、 「嘘、一回休憩」  僕の考えを見透かしたように言われてしまった。 「今日、リミッター壊れてるね、碧」  耀くんが手を拭きながら言った。 「俺も壊れそうでやばい」  まだ横になったままの僕の、腰から脚にかけてをするりと撫でた耀くんが困ったように言う。 「…壊れちゃえばいい…」  声が掠れる。 「…煽ってくるなぁ。ほんと、可愛くてタチ悪い」  とりあえずシャワー行くよって言われたけど、脚に力が入らなくて立てなかった。  仕方ないからしばらく休もうかってなって、木曜日に耀くんを見に行った話とかを改めてした。 「じゃあ、練習見に来るの言い出したのは萌ちゃんだったの?」 「そう。てっきりちかちゃんだと思ってたからびっくりした」 「そっ…か…」 「耀くん?」  顎に手を当てて考え込んでいた耀くんが、うんうんと頷いて、そして大きな手で僕の頭を優しく撫でた。 「なんでもない」 「ふーん?」  たぶん何かあるんだろうなと思ったけど、耀くんが言わないことを訊くのはやめた。  やっと歩けるようになって、2人でシャワーを浴びた。「碧ん家の風呂場は外に声が響いちゃうからね」って耀くんに言われて、でもぴったりくっついてシャワーをかけてもらった。  耀くんは「すっごいやりづらい」って苦笑いしながら、僕の身体をキレイに流してくれた。 「昼って何買っておいてくれたの?」  僕の髪にドライヤーをかけ終えた耀くんが言った。 「冷凍パスタにしたよ」  耀くんに「ありがとう」ってハグをして応えた。 「分かった。じゃ、向こうで休んでて。髪乾かしたらすぐ温めるから」  そう言って耀くんは自分の髪にドライヤーをかけ始めた。  休んでてって言われたけど、僕は洗面所の入口にもたれて耀くんを見ている。  まだ上半身は裸のままだから、キレイな筋肉が見放題だ。  背中、赤い線、くっきり付いてる。  僕の爪痕…  じーっと見てたら耀くんが振り返って「何?」って顔をした。  ううん、って首を振ったら「ふーん?」って感じで、また鏡の方を向いた。  
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