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お昼ご飯に僕が選んだ冷凍パスタ。
「あれ?これ、碧が誕生日の日に食べてたやつじゃない?」
冷凍庫からパスタを取り出した耀くんが言う。
「そう。覚えてた?」
僕はダイニングテーブルの自分の席に座って耀くんを見ていた。
今年の僕の誕生日は、耀くんが告白してくれた特別な日。
「覚えてるよ。碧がパスタのソースを口の端に付けてて、つい手が出た」
ふふっと笑った耀くんは、食器棚からお皿を出している。
「そうだったね。…なんか、すっごい前みたいな気がする」
「色々あったからなぁ」
と、耀くんがしみじみと言った。
「気付いたら秋、だよね」
「だな」
そんなゆるい話をしながらパスタができるのを待って、やっぱりゆるい話をしながら食べた。
耀くんが洗い物もしてくれて、午後は配信サービスで映画観ない?って言われて、無意識に唇が尖ってしまった。
「出た。碧のアヒル口。かーわいいんだよなぁ」
僕の尖った唇に耀くんがちゅっとキスをした。
「でもね、今は休んでおいて。…夜は長いよ?」
あとちょっとでスイッチが入りそうな耀くんの悪い微笑み。
身体の奥の熾火に、ふぅっと息を吹きかけられたような気持ちになった。
そんな顔見せといて、夜まで待てって言う…。
唇を噛んで見上げたら、耀くんがよしよしって頭を撫でてくれた。
「碧は映画は嫌?」
さっきと違う優しい顔で耀くんが僕を覗き込む。
「…やじゃない。観る」
でも特に観たいのは思い付かない。
「碧、これでいい?」
耀くんが示したのは、前に2人で観に行った映画だった。
「うん。面白かったよね、それ」
観始める前にコーヒーを入れてもらって、お菓子とかもいくつか持ってきて、ソファで耀くんにもたれかかった。
僕が中2で耀くんが中3の時に観に行った映画。
みんなで行ったけど、3組に分かれて、僕と耀くんは2人でこの映画を観た。
…僕が、これがいいって耀くんにねだって。
「…この映画観に行った時さ」
画面に視線を向けたまま、耀くんがぽつりと言った。
「俺、もう碧のこと好きだったんだよね」
心臓がどくん、と鳴って息が詰まった。
映画を観ている耀くんの綺麗な横顔。
僕はその横顔から目が離せなかった。
その視線に気づいた耀くんがちらりと僕を見て、そして大きな手で僕の頭を撫でてくれた。
映画に泣く要素は何もないのに涙が滲んでくる。
もたれかかっている耀くんの肩に顔を埋めた。
「…映画とめる?」
「ううん…、いい…」
耀くんの服を握って顔を擦り寄せた。映画は音だけ聞いている。
肩をしっかり抱いてもらえて、すごく幸せだと思った。
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