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放課後は僕の家、水瀬家にみんなが集まる。
僕たちの通っていた小学校の学童クラブは小4まで。だから姉が小5になった年から僕の家は学童化していた。
うちは小学校からほど近い一軒家で両親は共働き。集まりやすい条件と、姉のリーダー気質と、みんなの気遣い。それが全部合わさって、我が家は平和な溜まり場になっていた。
僕が高校生になった今も、それは続いている。
途中受験があったりして人数が減ってる時期もあったけど、基本的に平日はいつも誰かしらうちに来ていた。
僕は中学も高校も帰宅部で、だから毎日家でみんなと会っていた。
だけど。
昨日は家に帰らず耀くん家に行った。
昨日、耀くんは土曜日の文化祭の代休だった。
僕は普通に学校で、日曜の記憶と重だるさの残った身体で1日を過ごし、家の最寄駅に着いたら耀くんが待っていた。
ホームに電車が滑り込んでいく。向かい側のホームを今出た電車とすれ違う。
耀くん、乗ってたかな。
一緒に帰ってきた敬也と電車を降りて、改札に向かう階段を下りながら反対側のホームから続く階段を見た。
あ
耀くんだ
遠くからでもすぐ分かる、すごくスタイルの良い長身。
行き交う人が、思わず目を向ける端正な顔。
格好いい、僕の恋人。
「あ、水瀬先輩たちだ。谷崎先輩もいるじゃん。よかったな、碧」
「え?」
僕にそう言った敬也が、軽い足取りで改札に向かう。改札前に耀くんとお姉ちゃんとさっちゃんが待っていてくれた。
つい、頬が緩んでしまう。
敬也も頬を紅潮させている。敬也は姉のことが好きなのだ。
…お姉ちゃんは全然だけど。
お姉ちゃんは、ほんのこの前まで耀くんのことが好きだったから。
それを思うと胸が痛まないわけじゃないけど。
でもそれは、どうしようもないことだから。
「おかえりー」
と言いながら姉が僕たちに手を振った。さっちゃんもにこにこと笑顔を向けてくれる。「ただいま」と僕が言うと敬也も「ただいまっす」と言った。
「おかえり、碧」
そう言った耀くんが僕の方に手を伸ばした。
みんないるのにいいのかな。
ちょっとそう思ってドキドキしながら、
「ただいま、耀くん」
と言って耀くんの方に近寄った。
「さあ帰るよー」と言った姉が改札を抜けていく。さっちゃんと敬也が後に続く。僕は耀くんの後ろについて改札を出た。
「耀くん今日は?」
うち来る?
見上げて訊くと、耀くんが僕の肩に手をかけながら、
「どうしたい?碧」
と訊き返してきた。
どうしたいかって訊かれると…
おずおずと、耀くんの背中に腕を回した。
肩を組んで歩くぐらい普通。平気……たぶん。
視線を感じないわけじゃないけど。
「耀くん家、行っていい?」
ダメって耀くんが言わないことを、僕は知ってる。
耀くんもたぶん、僕が耀くん家に行きたいって言うって分かって言ってる。
そう思いながら耀くんを見上げた。
「もちろん構わないよ」
耀くんがそう言ってくれて、予定調和にほっとした。
「陽菜!碧、後で送って行く」
くっついてるから、耀くんの声が身体に響く。
姉が少し振り返って「はーい」と手を振った。
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