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部屋にはがっかりしたものの、二段ベッドは互いの顔が見えないので意外とプライバシーは保たれる。
「ね、翠ちゃん。そっから見える? 窓の、星」
見上げてみてぎらりとふたつ光ったのは、外の配管を這いずる鼠の眼だ。
カーテンのない四角い窓から見える隣接する雑居ビルの薄汚れた外壁。この街の地図みたいに張り巡らされた古い配管。星空なんてどこにも見えやしない牢獄のような部屋。
でも私にはぴったりだ。
クソみたいな人生を閉じるなら同じようにクソみたいな場所を選びたい。出来ればちょっとしたネットニュースにもなって、くだらないコメントを貰う程度の贅沢は許されてもいいと思う。
生活もままならない僅かな貯蓄。
騙されて入居したオンボロマンション。
鼠の眼を星の光だと言い張る頭のおかしい女。
――ようやく、死ぬにふさわしい舞台は整った。年齢は、三十二。よく生きたほうじゃないか。
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