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「こないだ新人のみゆちゃんを指名したんだけどさ、あの子何歳なの?」とビールっ腹の客が尋ねる。
「さあ~……私も話したことないので……」
「若く見えるけど結構いってるよね? 整形してても首筋で年齢わかるもんね」
その客の目線が私のデコルテに注がれているのに気付き、空調で冷えた振りを装って上着で隠した。見抜かれているようで恐ろしかった。
仕事は稼げる。
でも客の相手は疲れる。
父親のメールはもーっと疲れる。
『写真を送ってくれませんか? 瑛子の顔が見たいです^^』
少し迷って、『最近撮ってないから、今度送るね』と返事をした。整形に大反対していた父が私の顔を見たら、きっとブチギレるだろう。
給料は全部顔や体のメンテナンスに消えて貯まらず、馬車馬のように働き続ける他に選択肢はない。私に鞭打つ御者は、腫れぼったい一重が陰気な女だ。何度置き去りにしても忘却させてくれない、憎い瑛子の顔をしている。
「失敗した」と父は言った。
私が家を出る夜のことだ。
同感だよ。瑛子は失敗した。生まれた時点で決定事項だったのだ。
捨て去りたい存在なのに、忘れてしまいたい過去なのに、私は瑛子の銀歯を捨てられない。
なぜだろう。
……わからない。
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