2. G3RM!CIDE

2/2
前へ
/12ページ
次へ
   * 「こないだ新人のみゆちゃんを指名したんだけどさ、あの子何歳なの?」とビールっ腹の客が尋ねる。 「さあ~……私も話したことないので……」 「若く見えるけど結構いってるよね? 整形してても首筋で年齢わかるもんね」  その客の目線が私のデコルテに注がれているのに気付き、空調で冷えた振りを装って上着で隠した。見抜かれているようで恐ろしかった。  仕事は稼げる。  でも客の相手は疲れる。  父親のメールはもーっと疲れる。 『写真を送ってくれませんか? 瑛子の顔が見たいです^^』  少し迷って、『最近撮ってないから、今度送るね』と返事をした。整形に大反対していた父が私の顔を見たら、きっとブチギレるだろう。  給料は全部顔や体のメンテナンスに消えて貯まらず、馬車馬のように働き続ける他に選択肢はない。私に鞭打つ御者は、腫れぼったい一重が陰気な女だ。何度置き去りにしても忘却させてくれない、憎い瑛子(わたし)の顔をしている。 「失敗した」と父は言った。  私が家を出る夜のことだ。  同感だよ。瑛子は失敗した。生まれた時点で決定事項だったのだ。  捨て去りたい存在なのに、忘れてしまいたい過去なのに、私は瑛子の銀歯を捨てられない。  なぜだろう。  ……わからない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加