3. D3CIDE

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3. D3CIDE

『瑛子ちゃん。お父さんはもう限界です。 もし瑛子ちゃんも東京でひとりぼっちでつらいのなら、一緒に、楽になりませんか。 無理にとは言いませんよ。^^; お父さんのアパートは、前に送った住所から変わりありませんが、念のため、もう一度送ります。 〒XXX-XXXX F県K市N町――XXX番地X号』  スマホを手に脱衣場で立ち尽くしていたら、「翠ちゃん、柿食べていいー?」と乙女さんの呑気な声が聞こえた。 「この柿、どうしたのぉ?」 「えっと、お客さんから貰いました。ジジイって見当違いな差し入れするから苦手なんですよね。手荒な人も多いし」 「でもあたし、優しいおじいさんよりも痛くしてくるおじいさんのほうが好きぃ」 「えー。乙女さんってMですか?」  乙女さんは包丁を取り出し、軽く洗って布巾で拭いた。 「あたし父親に会ったことないんだよねぇ。だからかな。『小さい頃はおとーさんと結婚すると思ってた』みたいな話を聞くと、羨ましくて殺したくなっちゃう」  うわ、闇だな。 「……なるほど~」 「そういう年頃のクソ客に当たると『もしかしたらこの人にも娘がいて、家じゃ素敵な父親を演じていたのかもしれないけど、一皮剝けば本性はコレなんだよなぁ。くだらな(笑)』って溜飲が下がるっていうか」  剥いた柿に爪楊枝を刺す乙女さんの指は白くて美しくて恐ろしいほどだが目元の小皺の本数を数えると安心する。美人にも平等に年月は流れているのだと。 「柿余っちゃったけど、明日持ってけば? うちのエリアマネージャー、柿って顔だし」  曖昧に頷きつつ、柿って顔って、どんなだ? と思った。
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