3. D3CIDE

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   * 「ねー翠っち。ちょっと面談いい?」と角屋(かどや)さんに肩を突かれた。先月エリマネになったばかりの彼はいつも寝不足だ。 「その呼び方、ゲーム機みたいで厭なんですけど。あ。柿食べます?」 「へ、ありがと」  柿を頬張る角屋さんの顔は、どちらかと言えば柿というよりマンゴーって感じ。彫りが深くてハーフっぽいけど、純日本人らしい。  近くにいた女の子達が、コソコソと「翠さん、整形して元の顔が跡形も無いって話もマジか」と耳打ちするのがわかったけど、聞こえない振り。 「最近、この辺の店舗を利用している客がさ、どうも穂崎(ほざき)瑛子って人を捜してるみたいなんだ。翠っちの本名だよね?」 「……はい」 「年齢は五十代から六十代で、中肉中背。名前は穂崎トモユキ」 「父、です」 「父かあ」  角屋さんは腕組みをして、爪楊枝を噛んだ。 「ご迷惑をお掛けしてすみません」 「いや、別に迷惑は掛かってないんだけどさ。ストーカーならヤバいじゃん? とりあえず出禁でオッケー?」 「お願いします」  まだあのメッセージに返事をしていないのに、どういうつもりなのだろう。  自死を仄めかしておきながら娘の居所を探すなんて……目的は一つしか考えられない。  きっと道連れにするつもりなのだ。  一人で旅立つ勇気がないから、十年以上会っていない娘を巻き添えにしたいのだ。相変わらずのクズっぷりに笑えてくる。そんな男が私の父親だ。  ――ねえ、乙女さん。現実はこんなものだよ。仲良しこよし父娘(おやこ)なんて、幸運な、ヒエラルキーの上位しか享受できない幻。底辺には見ることも許されない夢のまた夢。  でも、と電子煙草を咥えて目を瞑る。  ――同時期に、同じように死ぬことを考えているなんて、こんな偶然すらも目には見えない親子の絆なのだろうか。  だとしたら、なんて残酷。  なんて無意味。
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