つきをのぞむ待ちびと

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つきをのぞむ待ちびと

 草木も眠る丑三つ時。月明かりの下、公園の遊具の上で一人の女の子が歌を歌っていた。人の子ならば疾うの昔に夢の中を彷徨っている刻限に、その子は明るく楽しそうに歌っていた。長い間待ち望んでいたモノがもう直ぐ手に入るかのように。  時を同じくしてスーツ姿の男が街灯に照らされながらとぼとぼと歩いていた。曲がり角のカーブミラーには男の疲れた顔が歪んで映る。馴染みの路地を進んでいると、ふと歌が聞こえてきた。それも小さな女の子の歌声が……。今は深夜だぞ、と男は自分の耳を疑って、しかし音のする方を向く。そこには確かに、無邪気に歌っている女の子がいた。  女の子は一瞬、ハッとした顔を向けて、次第に満開の笑みを浮かべる。目が合った。男の額に一滴、汗が流れる。彼女のつぶらな瞳にはくすんだ男の顔が映っていた。だからなのか、彼女は優しく声を掛ける――おつかれさま。
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