青年に送る歌

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青年に送る歌

少女は歌が好きだった。 いつも笑顔が溢れる街の中で、1人歌っていた。 それはとても美しく、可憐な歌声。 街の人々はそんな少女の歌が好きだった。 彼女が歌えば、辺りが幸せに満ちた。 ある日、1人の青年が少女に声をかけた。 青年は言う。「素敵な歌声だった」と。 少女は『ありがとう』と一言。 青年はどこか儚げな雰囲気を(まと)っていた。 見たところ何も持ってなく、 文字通り、着の身着のままの状態だった。 「君の歌をもう少し聞きたい」と青年は頼んだ。 少女は何も言わず、静かに歌い始めた。 聡明な少女は、青年の顔を見て察した。 彼はこれから"旅立つ"のだと。 そして、もうここには"戻らない"のだと。 少女は彼を止めなかった。 だけど、せめて"最期"くらいは笑って__ 少女はその想いを込めて、歌を送った。 「......本当に、素敵だ」 青年が思わず口に出してしまうほど、 少女の歌声には魅力があるのだろう。 青年は少女の歌を聞き終えると 「ありがとう」と一言呟き、 静かにその場を立ち去った。 __もしも願いが叶うなら           いつかまた、あの歌を__ ここからは風の便りに聞いた話。 どうやら青年は帰らぬ人となったらしい。 だけど、"眠りについた"彼の顔には なぜか笑みが残っていたとのこと。 一体、何が彼を追い詰めたのか。 彼は何を思って"飛び降りた"のか。 少女は知る由もない。
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