5人が本棚に入れています
本棚に追加
青年に送る歌
少女は歌が好きだった。
いつも笑顔が溢れる街の中で、1人歌っていた。
それはとても美しく、可憐な歌声。
街の人々はそんな少女の歌が好きだった。
彼女が歌えば、辺りが幸せに満ちた。
ある日、1人の青年が少女に声をかけた。
青年は言う。「素敵な歌声だった」と。
少女は『ありがとう』と一言。
青年はどこか儚げな雰囲気を纏っていた。
見たところ何も持ってなく、
文字通り、着の身着のままの状態だった。
「君の歌をもう少し聞きたい」と青年は頼んだ。
少女は何も言わず、静かに歌い始めた。
聡明な少女は、青年の顔を見て察した。
彼はこれから"旅立つ"のだと。
そして、もうここには"戻らない"のだと。
少女は彼を止めなかった。
だけど、せめて"最期"くらいは笑って__
少女はその想いを込めて、歌を送った。
「......本当に、素敵だ」
青年が思わず口に出してしまうほど、
少女の歌声には魅力があるのだろう。
青年は少女の歌を聞き終えると
「ありがとう」と一言呟き、
静かにその場を立ち去った。
__もしも願いが叶うなら
いつかまた、あの歌を__
ここからは風の便りに聞いた話。
どうやら青年は帰らぬ人となったらしい。
だけど、"眠りについた"彼の顔には
なぜか笑みが残っていたとのこと。
一体、何が彼を追い詰めたのか。
彼は何を思って"飛び降りた"のか。
少女は知る由もない。
最初のコメントを投稿しよう!