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女性に送る言葉
青年が"去った"後も、少女の歌は
街の人々を魅了し続けた。
ある日、1人の女性が近づいてきた。
女性は何か"背負っていた"。
どうやら、演奏家のようらしい。
「貴方はどうして、いつもここで歌っているの?」
女性は不安げな顔をしながら聞いてきた。
『歌が好きだから』
嘘偽りのない思いを少女は言う。
女性は何とも言えないような表情をした。
聡明な少女は、
女性が何を"背負っているのか"を察した。
少女は、何気なく呟く。
『嫌なら嫌で、いいじゃない』
女性は驚いた。
自分の悩みを当てられたことも、
自己満に過ぎないことを言った少女にも。
「それは...常識的に考えてっ__」
『好きでもないことに、人生をかけるのは常識なの?』
「__っ」
『わたしは、好きだから歌い続けてる』
そう言って、少女はまた歌い始めた。
それは女性への慰めか、自身を表す証明のためか。
「__そっ、か」
女性は何かに気付いたようだ。
もう、不安げな表情は見えなかった。
女性は歌を聞き終えると、小さな拍手を送り
静かにその場を立ち去った。
__もう"これ"は必要ないわね
でも、あの歌だけはちゃんと__
ここからは風の便りに聞いた話。
どうやら、近くで演奏会があったらしい。
しかし、1人のバイオリニストが行方不明となり
演奏は失敗に終わったんだとか。
彼女が、どれほど多くの演奏を引っ張ってきたのか。
彼女が、どれほど多くの自由を奪われたのか。
少女は知る由もない。
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