最終章 挑戦状

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白崎ユノカがユキさんだと判明してひと月ほど経ったある日。 ユキさんのエッセイの掲載されている月刊誌の最新号が発売になった。 僕は生まれて初めてその雑誌を自分で買い、情報に飢えている僕は、家まで待ちきれずに帰宅途中にある公園のベンチに座って読むことにした。 ユキさんに関する情報ならなんでも欲しい。 この一ヶ月、ネットで検索したり、ユキさんの作品が載っていそうな文芸誌に目を通してみたけど、なかなか今のユキさんに関する情報は出てこない。 ユキさんに関して、ウィキペディームにも記載があったけど、断筆してから失踪するまでのことしか書かれておらず、最新の話題はまだ掲載されていなかった。 というよりも、個人で“wiki”があるって、いよいよ別世界の人のように感じてしまう。 ダボハゼのように情報に飢えている僕は、巨大ネット掲示板“9ちゃんねる”でも、ユキさんに関する情報を探してみた。 すると、なんとユキさんに関するスレッドが何本も立っていた。 ファンが立てたスレッドや、アンチが立てたスレッド、エッセイの感想についてのスレッド等々。 そのエッセイスレの中に、興味深いレスが一つあった。 『白崎ユノカは過去にスランプになった時にメディアバッシングされたので、それ以降はメディアには基本、塩対応。しかも新作出しても余程信頼のおける記者以外の単独取材は、受けないことにしているらしい』 そこには、真偽は不明だけど、今まで僕が見つけられなかった情報が書かれていた。 一緒に住んでた時に体調崩して倒れたことがあったけど、その原因について、前回のエッセイでは、確か、ワイドショーで自分の“失踪事件”が悪意を持って取り上げられてるのを見たからだと書かれていた。 ---そりゃ、マスコミ嫌いにもなるわな。 そんな理由からか、執筆活動を再開したとはいえ、メディアへの露出は殆どないまま。 ということは、最新のユキさんの情報に触れられるのは、今のところこのエッセイの連載だけしかない。 今までの人生でこんな文字ばっかりの雑誌なんて買ったことなかったし、結構お高い雑誌だけど、背に腹はかえられない。 ---今月号にはどんなことが書いてあるのかな? もしかしたら、“失踪”期間中の出来事が書かれてたりして…。 そうワクワクしながら読み始めたんだけど…。 今月号のユキさんのエッセイは、現在の執筆環境のことについてだけだった。 それによると、執筆活動を再開したのはいいけど、休養期間が長かったせいで中々執筆のペースが上がらない。それに痺れを切らした担当編集者さんに、とある地方にある旅館に“缶詰”にされ、編集者さん24時間の監視の元、無理やり書かされているのだと、ボヤいていた。 一人で缶詰ならまだ気が楽だったけど、今回はユキさんがまた逃げ出さないようにと、監視役の女性編集者が一緒に泊まっているので、気が休まる暇がないと。 流石にユキさんと編集者さんの部屋は別々らしいけど、一年前に無断で逃げ出した前科のあるユキさんだけに、全く信用されてなく、編集者さんが旅館の中居さんにまで手を回しているので、こっそり出かけようとしても、すぐ“通報”されてしまうのだと、“缶詰生活”が面白おかしく書かれていた。 ---目新しい情報は無い…か。 エッセイを読み終え、期待した内容じゃなかったことに少しがっかりしていた僕は、雑誌を閉じようとした瞬間、ふと欄外に書かれたある文字列が視線に入り、慌ててもう一度雑誌を開いた。 エッセイの掲載されたページの欄外、いわゆる“柱”と呼ばれる部分に書かれた一文。 そこに書かれた文を、反芻するかのように何度も読み返した。 『ユノカ先生がファンの方向けにインスタグラムのアカウントを開設しました。アカンウトは yt-love-curryriceです。是非フォローしてください。担当:由』 おそらく担当編集者さん(由さん?)が書いたのであろう、ユキさんに関する最新情報。 ユキさんが一般のファン向けにSNSを始めたという告知が、そこに書かれていた。
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