最終章 挑戦状

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エッセイの載った月刊誌を買って帰ったその夜。 予想通りというかなんというか。 やっぱり折原が電話をかけてきた。 「ねえ、拓哉くん、もう読んだ? 最新号の白崎ユノカのエッセイ」 「ああ、読んだよ」 「ってことは、インスタのアカウントも…?」 「もちろん、そっちも確認済み」 雑誌を買って帰ってからすぐ、僕はインスタグラムのアプリを開き、雑誌に掲載されていたアカウントを検索して、ユキさんが新しくファン向けに開設したアカウントをフォローしていた。 僕も前からアカウントは持っていたけど、それまで IDとユーザーネームは、万が一誰かにアカウントを見つかっても僕のアカウントだとわからないように、自分の名前のアルファベットの綴りのアナグラムにしていた。 それを思うところがあって、今回ユキさんの新しいアカウントをフォローする際に、ユーザーネームを自分の漢字氏名の「加賀拓哉」に変えた。 何故か。 そうすれば、ユキさんが僕がフォローしたことに気づいてくれるかもしれないと思ったから。 おそらく大勢いるであろうフォロワーの中に、僕のアカウントがあることに気づく可能性は低いだろう。 てもほんの僅かでも可能性があるなら、それに賭けたい。僕の名前を見つけて、僕のことを思い出してほしい。 そして、ユキさんにだけ伝わるメッセージはないかと考え、僕は机の引き出しにしまっていた、ユキさんに初めて会った日に貰ったポストイット、【ユキさんが一つだけ言うことを聞いてあげる券】を【ユキさんが】の部分だけ写らないようにスマホで撮影し、それをアイコン画像に変更。プロフの一言欄に、【もう一度会いたい人がいます】と打ち込んだ。 アカウントのユーザーネームを変えたら、知人に名前バレするかもしれない。 でもまあ、今の時点で僕のアカウントをフォローしてくれそうな友人は、ごく親しい数人を除いて殆どいない。 折原にもアカウントの存在は教えてないし。 --------------- 「白崎ユノカのアカウント、とりあえずフォローはしといたよ。 てかせっかくのインスタなのに、投稿してるの、写真じゃなくてパワポ資料のスライドショーみたいなヤツだったけどさ」 「やっぱ拓哉くん、フォローしてると思った。白崎ユノカのアカウントのフォロワー検索したら、拓哉くんの名前があったもん。 まさか本名でやってるとは思わなかったけどね。 ところでさあ。 私も拓哉くんのアカウントにフォローしてもいい? てか、あのアイコン、なに? メッセージも意味深なんですけど? もしかして、へのメッセージのつもり? 多分無駄だと思うよ。だいたいああいうアカウント、マネージャーさんとか編集者さんが管理してて、本人はほとんどタッチしてないみたいだしね」 「そ、そのアカウント、僕じゃなくて、同姓同名の別の人なんじゃないかな?」 「ウソつくの、相変わらず下手くそだねえ」 ユキさんのことを最早“あの人”呼ばわりする折原のせいで話が脱線したけど、とにかく、ファン向けとはいえ、ユキさんがインスタを始めてくれたおかげで、少なくとも最新のユキさんの動向を知ることが可能になった。 パワポで文字書いてそれを画像変換してインスタに乗っけるくらいなら、始めからツイッターやった方がラクなのにと思ってだけど、ユキさん的には別の考えがあったらしい。 2回目の投稿には、『何故インスタを選んだのか』として、『ツイッターだと脊髄反射で感情的に投稿してしまいそうになるので、自分的に投稿までに手間が掛かって、その間に頭を冷やせるインスタにしました』と書かれていた。 その判断基準はよく分からないけど、ユキさんの頭の中では、そういう位置づけなのだろう。
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