最終章 挑戦状

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折原との電話を切ってから、僕はある仮説に基づいて、もう一度ユキさんの投稿したメッセージについて考えてみることにした。 折原やその他のファンの人たちは、そのメッセージは当然ながら誰か特定の人に向けて出されたものではなくて、“ファンのみんなに向けたもの”という前提で考えている。 もちろん、僕もそれが一番しっくりくると思う。 でもそれで答えが出ないのなら、僕は違う観点から考えてみたい。 折原には「自惚がすぎる」と笑われてしまったけど、これは特定の人に向けたメッセージ、つまり、僕、加賀拓哉に向けた“挑戦状”なのではないか。 これは僕の推測だけど、ユキさんはインスタのフォロワーの中に、僕の名前を見つけた。そしてそのアイコンの“ポストイット”の画像と、プロフィール欄の僕のメッセージを読んだ。 だからそれに応えようとして、こんな手の込んだ謎解きのような投稿をしたんじゃないか? そう考えれば、違ったものが見えてくる。 これは、やっぱり僕個人に向けたメッセージだ。 だから、ヒントは、ファンや折原は知らなくても、ユキさんと一年間一緒に暮らした僕だけが知っていること。 そう信じて、もう一度考えてみることにした。 そうすると、最初の縦読みの『キミに会いたい ココで待ってる』の“キミ”は僕に向けたメッセージで、待っている“ココ”は、僕が思いつく場所、且つユキさんのとも言える場所。 そこで、ユキさんは僕がこの謎解きをするのを待っている。 “原点”の場所といえば、出身地や母校のことを指すと思うのが普通だけど、“僕だけが知っている”というモノサシで考えれば、答えは変わってくる。 ---名前…? ユキさん=白崎ユノカの本名を知っているのは、編集者さんやごく親しい人を除いたら、素顔も非公開にしてるくらいだから、あとは僕くらいだろう。 ユキさんの本名は『滝尾有希』。 でも、お母さんが再婚する前の本名は『城崎有希』だった。 “場所”のヒントに関係するとしたら、名字でもあり地名でもある城崎…。 城崎温泉のことじゃないだろうか。 編集者さんに和風旅館に“監禁”されて缶詰になってるということは、その指す“ココ”とは、城崎温泉のどこかの旅館なのではないか。 確かにユキさんの本名、しかもお母さんの再婚前の昔の旧姓なんて、レアすぎてスタッフさんでも知らないだろう。 ------------------ 続いて、さっきの折原との会話では未解明に終わった、“curryの前”の謎。 これは、なんでここだけカレーがカタカナじゃなくて英語のアルファベットなんだろうと、僕はずっと引っかかっていた。 他の文章のようにカタカナじゃなくて、ここだけわざわざアルファベットで書くということには、そこに意味があるはず。 そう考えた僕は、とりあえずこのインスタの過去の投稿の中から“curry”という単語を探してみることにした。 ユキさんの出したメッセージの“curryの前”の意味するところは、その単語のか、その単語の含まれた投稿のの投稿って意味じゃないだろうか。 僕はユキさんのアカンウト開設以降の全ての投稿をじっくり何度も読み返してみた。 でもこの推理はハズレだった。 過去の投稿では、一度も“curry”の文字が使われていない。 ---読みが外れたなぁ。いい線いってると思ったんだけどなあ。 幾分落胆しながらユキさんのアカウントをクリックして開いては閉じ、開いては閉じを繰り返していた僕は、ふとあることに気がついた。 ---curryって、もしかしてアカウント名…? ユキさんのアカウント名は “yt-love-curryrice” “curry”の前にあるのは、“love”。 ---もしかして、これって…。 loveの前の文字は、yt。 これはユキさんの本名の“ユキ・タキオ”のイニシャルだとは思うけど、自惚れついでに、僕に向けて作られたモノだと仮定すれば、ユキと、僕、タクヤのyとt? すっごいキモくて恥ずかしい妄想かもしれないけど、この謎解きが僕向けのメッセージだという前提で考えれば、この可能性はゼロではない。
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