君と歌う不協和音

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やはりと言うべきか、上手くいかなかった。愛原先輩は声がくぐもって歌いづらいと言った。無理強いをするわけにもいかず、笑って誤魔化しながらバケツを片付けた。先輩自身が自分の問題に気づいてくれるのが理想だが、考えが甘いのだろうか。 「ねぇ、私の歌声って変?」  自信なさげに呟かれたその言葉が心臓に刺さる。 「僕は好きですよ、愛原先輩は綺麗な歌声をしています」 「違うの、好きとか嫌いとかじゃなくて客観的な意見がほしい。私ってもしかして下手なのかな」  なにがそう思わせてしまったのか、わからないがそれでも違うと叫びたかった。それなのに声が出ない。ここで嘘をつくと取り返しのつかないことになってしまうことだって想像ついてた。それなのに。 「……なに不安になっているんですか。大丈夫ですよ、愛原先輩ならきっと」  少しの間をおいて、愛原先輩が笑う。それはいつもの花が咲いたような笑顔ではなかった。 「そうだよね、私が不安がっちゃダメだよね。ありがとう」  無理して笑っているんだと一目でわかる表情に後悔が募る。学園祭までどうにかすると息巻いていたのに、どうにもならないかもしれないと考えた途端、ギターの弾き方がわからなくなった。
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