君と歌う不協和音

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「すみません、突然入ってきて。ここって軽音楽部の部室で合っていますか? ビラなど配ってなかったので確証が持てなくて……」 「えっ! 入部希望者!? しかも男の子とか初めてなんだけど! すごいすごいすごい!」  間違ってはいないようだったが、先輩の興奮具合がすごかった。もしかして、誰も来ないのだと思っていたのだろうか。思考を巡らせているうちに、先輩は僕の手を引いた。音楽室の奥にある扉から隣の部屋に入ると、手入れの行き届いた楽器たちが並んでいた。当然、その中にはギターもあった。 「ねぇ、きみは楽器なにか弾ける? それともボーカル志望だったりする?」 「一応去年からギターの練習はしていて、基礎とか簡単な曲ぐらいなら演奏できます」 「じゃあ楽譜も読める? どれぐらい弾けるか試したいんだけどいいかな」  返事をする前から先輩は鞄の中から楽譜を取り出した。渡されたものをそのまま受け取り、軽く目を通してみる。そして気づいた。これは去年僕が見た軽音楽部のパフォーマンスで演奏された曲だ。そんなに難しい箇所はなさそうだが、自分の場合一曲弾きこなすのに相当な時間を要する。もしこれが入部テストだったらどうしようかと考える。 「はい、これギターね。調律は済んであるからそのまま使えるよ」  微笑んだその顔を見ては断れずにいる。 「あの、僕そんな上手くないし、練習だって時間かかるし……上手く弾けるか、なんて……」 「大丈夫だよ、私がメロディーを歌うからゆっくりやってみよう」  花が咲いたかのような明るい笑顔で先輩は言った。一呼吸置いて、演奏する心の準備を整えると、先程自分が通ってきた扉から大きな声がした。 「ちょっと待って! 入部希望者かもしれないから見てくるね!」  そう言って先輩は駆け出した。せっかく整っていた心の準備が乱されてしまう。隣の入り口から聞こえてくる声に耳を傾けてみた。 「去年の学園祭のパフォーマンスを見て来たんです!」 「バンドにもともと憧れがあって……」 「吹奏楽やってたんですけど、今までと違う楽器を弾いてみたくて」  様々な理由をもとに数人集まっているようだった。 「うちは誰でもウェルカムだよ! 楽器も弾けなくても大丈夫、これから練習していこう! 実は先に一人来ていてね、一緒に案内するよ」  すると、ぞろぞろと五人ぐらいの人が中へ入ってきた。男女混じっていたが、若干女子生徒のほうが多かった。みんなが適当に座ったところで先輩は僕の顔を見て、続きをやろうかと言った。もう一度ギターを構え直し、深呼吸をした。 「ワン、ツー、スリー、フォー」
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