君と歌う不協和音

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 人に見られている中、演奏するのは初めてのことだったから緊張していた。何度もミスしたが、僕の演奏と先輩の歌。目立っていたのは後者だった。気まずそうな雰囲気の中、演奏を聴いていた同じ一年生たちは顔を、見合わせたあとまだらに拍手をした。その空気に一人気づいていない先輩はこれでもかと嬉しそうな表情を浮かべていた。 「久々に歌えて楽しかったよ。去年先輩たちが引退してから私一人になったからさ。この後、みんなが弾いてみたい楽器に触れてみる時間にしようかと思うんだけどどうかな?」  僕が口を開こうとしたところで、一年生たちが即座に立ち上がった。 「すみません、私ちょっとこのあと塾があるので……」 「私も家の用事があって」 「僕もちょっと残れないです……」  各々言い訳がましい言葉を並べては、帰る準備を始めていた。ここに入ってきた瞬間の楽しそうな雰囲気はどこにもなかった。それでも先輩は嫌な顔ひとつせず、みんなに手を振っていた。 「そっか、じゃあ仕方ないね! ここは毎日活動してるからまたいつでもおいでよ!」  その言葉には誰も返事をせず、あっという間にまた僕と先輩のみになった。 「先輩、いい人ですね」 「え、私? そんなことないよ」  顔の近くで手を振りながら否定されたが、あの一年生たちの嘘を見抜けない辺りきっと純粋な人なのだろうと勝手に思った。 「君……ってか、名前訊いてなかったから教えてもらってもいい?」 「あ、藤野翔太です」 「私、愛原恵、三年生です。藤野くんは入部するの?」  期待の眼差しを向けられなくても、先輩の歌声を聴いたときから答えは決まっていた。 「はい」
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