君と歌う不協和音

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 それから部活勧誘期間である一週間を経過した今、最終的に正式入部したのは僕だけとなった。何人か見学に来た人はいたが、その後部室に顔を出した者はいなかった。先輩はその事を不思議がっていたが、理由に察しがついていた僕は、口にこそは出さないものの仕方のないことだと捉えていた。そして、今日も先輩は一年生が僕だけだということを嘆いていた。 「私と藤野くんだけでバンドやるのぉ。もっと人欲しかったなー、なんで皆他のとこ行っちゃったんだろう」 「実際に見学に来て理想と違ったとか、自分にはできないって思ったんじゃないですか?」 「そんなの練習してみなきゃ分かんないじゃん、合う合わないは確かにあると思うけどさ」 「まぁ、僕ら二人だけで今年は頑張りましょうよ」 「学園祭のパファーマンスで成功すると次の年の新入部員がたくさん来るっていうジンクスみたいなものがあってさ、去年見てたでしょ? 大成功だったじゃんあれ。だから、今年期待してたんだけどなぁ」  そう言って先輩はさらに項垂れた。 「そういや、二年生はいないんですか?」 「いたんだけどねぇ。去年の三年生が引退したあと、誰も来なくなっちゃった」  これも大体想像がつく。 「去年の部員みんなレベル高かったから私もパフォーマンスに出たかったんだけど、推薦式でメンバー決めることになってさ。私、選ばれなかったんだよね。先輩たちにとっては最後の学園祭だったから優先してあげたいって気持ちはもちろんあったし、異論はなかったんだけど、今年に期待してたからなぁ」 「やっぱりボーカル志望だったんですか?」 「そうそう」  これも納得する。推薦式にしてしまえば、自分が選ばれなかった理由を愛原先輩が勝手に作り上げて納得するとでも考えたのだろうか。ギターを構えて、指の柔軟性を鍛えるトレーニングをしていると、ノックもせず顧問の先生が入ってきた。週に一度だけ、顔を出しに来るが音楽に関する知識はほとんどないため、基本的には数分椅子に座って様子を見て帰る。 「入部したのは藤野だけか」 「あ、まぁそうですね」  楽譜をひらひらとさせていた愛原先輩が顧問に噛みつく。 「藤野くんは期待の新入部員だから。藤野くん一人でも十分ですぅ」 「でも二人じゃ学園祭には出れないぞ」 「軽音楽部として出るから人数は関係ないでしょ。録音音源使ったりしてなんとかするわ」  今にも唸り声を上げそうな愛原先輩の顔と、全く興味のない顔をした顧問の顔が近づく。すると、顧問が愛原先輩の頬をペチッと軽く叩く。 「まぁ、録音音源どうのこうの以前の問題だと思うがな。なんとかできるなら、なんとかしてみせろよ、藤野」  やはり、顧問も把握していたのかと驚きはしなかった。そりゃあ、顧問だもんなと納得したが、先輩は納得がいかなかったようで、部長は私なんですけどと叫ぶ。自分に任された荷の重さを感じながら、この問題をどうするべきかを悩んでいた。 「じゃ、また来週」  それだけ言い残して顧問は部室を出ていった。あの様子じゃ、きっとアドバイスする気なんてさらさらないのだろう。 「先輩、学園祭って十月でしたっけ」  不思議そうな顔をしながら、そうだよと愛原先輩は答える。学園祭まで半年と考えると、案外なんとかなるのではないかという気がしてきた。大丈夫だ。僕と愛原先輩で去年のようなパフォーマンスをしてみせる。謎の自信に満ち溢れていた頃、もう一つの問題が隠れていることに気づいてなかった。
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