君と歌う不協和音

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あれから僕はひたすらにギターの練習を繰り返していた。どんな曲ができあがってもきちんと弾きこなせるように特にテクニック面を重視した。もちろん、指の柔軟や基本となるコードの練習は欠かさなかった。僕がギターを練習している横で先輩はピアノを鳴らしながら、一音一音確認していくかのように楽譜を埋めていった。今回、舞台に立つのは僕ら二人だけのため、ベースやピアノ、ドラムの音はスマホで打ち込んで作曲を進めていった。生の演奏にこだわった先輩はギターとボーカルは録音せずにやると宣言していた。顧問は顔は出すものの口出しは一切せず、毎回目線で僕にプレッシャーをかけてきていた。  そしてついに、一学期の終業式が行われた今日。部室へ行くと、清書した楽譜を愛原先輩から手渡された。 「待たせたね、これでやっと練習ができるよ」  少しだけ目元にクマが浮かんでいた。 「すごいですね。お疲れさまです。徹夜したんじゃないですか」  少し恥ずかしそうな顔をして、愛原先輩はちょっとだけねと呟いた。カバンからスマホを取り出し、スピーカーに接続していた。 「とりあえず、ギターとボーカル以外の音源は作ってきたから試しに聴いてみてほしい」  いくよと言って愛原先輩は音源を再生した。去年とはうってかわって、シンプルな演奏だった。特に激しく演奏する場面はなく、優しそうな雰囲気に仕上がっていた。そして、これだけ伴奏が柔らかいと曲の主軸はボーカルに委ねられる。  曲が終わり、不安げな表情で愛原先輩はどうだったと尋ねてきた。僕はできる限りの満面の笑みを浮かべて親指を立てる。 「良かったー! これで安心して学園祭に挑めるよ」  やりきった表情で、綺麗とはいえない部室の床に寝転がる。 「この曲、先輩の歌にかかってますね」 「やっぱり気づいた? 去年は先輩たちが演奏する曲だから派手な見せ場のあるものを作ったけど、今年は私が主役になれるような曲を作ったんだ。もちろん、練習は頑張るから」  また、花が咲いたかのような笑顔だった。明日からしっかりと愛原先輩のサポートができるよう、今日中には音源を頭に叩き込んでおこうと心に決めた。 「明日から練習、頑張りましょうね」  そう言って立ち上がり、ギターを手に取った。 「何言っているの? 今日から練習するよ」  いたずらっぽく笑った口から見えた八重歯が、可愛らしい悪魔のようにみえた。その笑顔に免じて、練習する場所を自宅から部室に変更したことは言わないでおこう。
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