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「猫の集会」
ホールに溢れかえる人並みの中、周囲を不自然にならない程度に、さりげない風を装って監視していた彼の眼が、ふと一人の女性に吸い寄せられた。
青いドレスを纏った黒髪の女性だ。
パーティ会場に青いドレスを着た女性は他にもいた。
その中でも、とりわけ彼女が並はずれて美しいとか、肌が黒いというような特徴的な外見だったとか、逆に地味だったとか、そういうわけではない。
そもそもパーティ客全員が様々な装飾を凝らした仮面をつけているため、どの客も顔がわからない。
そう、現在この会場で行われているのは仮面舞踏会だ。
月に数回、貴族たちの間で開催される娯楽の一つ。
このパーティに参加している客という時点で、高貴もしくは、相当な富裕層の出であることは明らかである。
また、貴族層では、容姿端麗である者が多いのも確かだ。
けれども、そんな中でも、彼女だけが異彩を放っているように彼には感じられた。
仮面で表情こそわからないが、彼女のまとう雰囲気が他の客とは違うように感じる。
無理矢理に表現するなら、何故ここにいるのか。
いや、ここにいるのがおかしい、というような感じであろうか。
とにかく、彼女がこの場にいるのがふさわしくないように思えるのだ。
それは彼の職業上、養われた勘とでもいうべきか。
――彼女は、『青猫』の一味なのか……?
神出鬼没な窃盗団<青猫>
彼らの目的、名前、素顔、潜伏場所など、多くのことは謎に包まれ、正確な情報と呼べるものはほとんど存在しないが、現段階で判明しているのは、狙撃手、爆弾使い、鍵開け師、そして『首領』と呼ばれるリーダーと思われる人物が存在することである。
――それだけの情報では人物像すら特定できないじゃないか……
確信はないし、証拠もない。
致命的なのは、青猫一味の名前も顔もわからないことだ。
いくら彼女を怪しいと思っても、それはただの思い過ごしかもしれない。
まったく無関係の人間を犯人扱いして、こちらが訴えられてはかなわない。
そうかといって、彼は自分の直感を無視できなかった。
今夜<青猫>がここに現れる。
その情報が手に入ったのは、ほんの2、3日前のこと。
仮面舞踏会という貴族間での娯楽イベント。そこでおこなわれるオークションに<青猫>のターゲットがあるという情報だ。
<青猫>がポリスに犯行声明を出したというわけではない。
漠然とした噂話程度の情報で、ポリスが動くというのも問題かもしれないが、それなりの理由がある。
ただでさえ<青猫>の情報は少ないのだ。
信憑性の高い情報がそう簡単に手に入るわけがなく、噂話のような小さな情報でも、それが<青猫>に関するものであるのなら、ムシはできない。
藁をもすがる思い、といっても過言ではないだろう。
――とりあえずマークしておこう
会場内には、自分の他にも何人か変装したポリスが潜入している。
また会場の外にも、不審者撃退用に防犯装備として使用されている「自動機械警備人形(マリオネット)」がいる。
警備にぬかりはない。
そんじょそこらのコソ泥では逃げだすことが不可能なほど万全な警備体制である。
さらに加えて、この屋敷そのものにも複数の防犯トラップが存在していると説明されている。
家主曰く、どんな泥棒であれ掻い潜ることは不可能という自慢の警備トラップらしいが、<青猫>相手にどこまで効力があるのかはわからない。
――どっから来る……『青猫』!
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