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「ごめん……。こんなことをするために、君をここへ連れてきたわけじゃない。ただ、亜澄を感じたかった。一度触れてしまうと、もっと欲しくなって……」
私は首を何度も横に振った。
「私も、一瞬だけ昔に戻ったみたいに感じちゃった。でも、今の私たちは立場が違うから」
紘登はくしゃっと前髪をかき上げ、体を起こした。
「そうだ。これからしばらく週末だけ家族のように過ごそう」
「家族……⁉ どういうこと?」
「俺は週末だけ千帆ちゃんの父親として手伝う約束だ。二人が自由にここへ来て食事をしたり、どこか一緒に遊びに出かけたり。な、いいだろ?」
嬉しそうな表情で問いかけられ、何も返せない。
「でも……」
「亜澄は、ここで過ごす代わりに家事をやってもらえばいい。そうすれば君も遠慮なくここへ来られるだろうから」
突然の提案に驚いて起き上がる。断ろうにも、無邪気に喜んでいる紘登の表情を見ていたら、言葉が見つからない。
「お願いだ。この我がままだけは聞いて欲しい」
「――わかった。でも、千帆が混乱するから、お友達としてね」
「それでいいよ。こらからは週末が待ちきれなくなりそうだ」
紘登は喜びを溢れさせるように、こちらへ笑みを向けた。
彼が部屋を出ていくと、私はベッドに寝ている千帆の隣へ、そっと潜り込んだ。目を閉じると、紘登の温もりと優しい声が蘇り、キスの余韻がいつまでも消えなかった。
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