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7.幸せと真実
翌朝、少し早く目覚めた私は、冷蔵庫に入っているもので朝食を作ろうとキッチンに材料を並べた。卵にきゅうりとハム、パンが冷凍に入っているから、オムレツでも作れば……そんなことを考えていたら、いつの間にか紘登が起きてきた。
「亜澄、おはよう。千帆ちゃんは、まだ起きてない?」
「おはよう、紘登。どうやら寝心地がいいみたいで、まだ眠ってるの」
「そうか。それは良かった」
紘登は、対面キッチンのカウンターに腰を下ろした。私は昨夜のことが気恥ずかしくなって、視線を手元に向けながら返事をする。
「このまま、ここから眺めていてもいいか?」
「う、うん」
本当は気が逸れるから遠慮してほしかったけれど、拒否するのもまるで意識してるみたいだ。気にしていないフリをして、包丁を手にした。まな板の上できゅうりを切っていく。室内にトントンとリズムよい音を響かせた。
途中、包丁さばきを見られているような気がして、手首に力が入った。その瞬間、鋭い痛みが走る。
「痛っ!」
きゅうりを切っていたはずの包丁が、抑えていた指をかすめた。左手の人差し指がみるみる真っ赤に染まる。
「大丈夫か?」
紘登が立ち上がり私に近づくと、切り傷を負った手を持ち上げた。驚いているうちに、指先が彼の口元へと運ばれる。
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