1.思い出の場所

5/11
1782人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
「ママ、ちほは、ドレスいつ着れるの?」  千帆は嬉しそうな顔をしてその場で足をバタつかせている。せっかく楽しみにしていたのを、目の前でお預け状態では可哀そうだ。かといって、今さら忙しいからと辞退できる状況ではない。  手続きを済ませると、私たちはスタッフの案内で、園内中央に位置する彗星の城のイベントスペースへ連れて行かれた。  その場所にはカメラが数台置かれ、報道の腕章をつけた人たちや、見学するお客さんが、何が始まるのかと私たちを見つめている。  クラッシック曲が大きな音で流れ始めた。 「それでは七億名様に該当しました、水原亜澄様のご家族に、特別賞の受賞式を行います! 贈呈はシャイニーワールドを運営する、守崎グループ守崎(もりさき) 紘登CEOが行います」  アナウンスのあとに、スーツを着た集団の中から背の高い男性が現れた。その人を見て、呼吸が止まりそうになる。  「…………紘登」   驚きのあまり呟いた小さな声は、観衆のざわめきにかき消される。  彼は四年前までつき合っていた千帆の父親、紘登だった。  紘登は昔と変わらずスラリと背が高く、ダークグレイのスーツがとてもよく似合っていた。優しそうで形の良い切れ長の目とシャープで整った顔立ち。昔と変わらない眼差しをこちらへと向ける。一瞬目が合いそうになり、私は慌てて逸らした。  でも、本当に紘登なの? 苗字は藤沢だったはずなのに……。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!