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「ママ、ちほは、ドレスいつ着れるの?」
千帆は嬉しそうな顔をしてその場で足をバタつかせている。せっかく楽しみにしていたのを、目の前でお預け状態では可哀そうだ。かといって、今さら忙しいからと辞退できる状況ではない。
手続きを済ませると、私たちはスタッフの案内で、園内中央に位置する彗星の城のイベントスペースへ連れて行かれた。
その場所にはカメラが数台置かれ、報道の腕章をつけた人たちや、見学するお客さんが、何が始まるのかと私たちを見つめている。
クラッシック曲が大きな音で流れ始めた。
「それでは七億名様に該当しました、水原亜澄様のご家族に、特別賞の受賞式を行います! 贈呈はシャイニーワールドを運営する、守崎グループ守崎 紘登CEOが行います」
アナウンスのあとに、スーツを着た集団の中から背の高い男性が現れた。その人を見て、呼吸が止まりそうになる。
「…………紘登」
驚きのあまり呟いた小さな声は、観衆のざわめきにかき消される。
彼は四年前までつき合っていた千帆の父親、紘登だった。
紘登は昔と変わらずスラリと背が高く、ダークグレイのスーツがとてもよく似合っていた。優しそうで形の良い切れ長の目とシャープで整った顔立ち。昔と変わらない眼差しをこちらへと向ける。一瞬目が合いそうになり、私は慌てて逸らした。
でも、本当に紘登なの? 苗字は藤沢だったはずなのに……。
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