7.幸せと真実

6/10
1790人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
「そんなのおかしいよ。私だけこんな格好で……。ところで、紘登は撮影について行かなくてもいいの?」 「監督に任せてあるから、最後に確認すればいいことになってる。それに、今は亜澄を見ていたい」  紘登の言葉に少し戸惑いを覚えた。  ずっとこんな風に、紘登のそばにいて大丈夫なのだろうか? 「いつまでも二人でいたら、仕事に差し障りがあるでしょ。それに、私が紘登のそばをうろちょろしてたら、誤解されて……」  紘登が急にこちらへ近づき、私の腕を掴んだ。 「秘書にからかわれたよ。こんなにあからさまにされると、周りにも疑われるってね」 「やっぱり迷惑なんじゃ……」 「それでいい。今は誤解されるため、二人きりになったんだ」  私は視線をどこへやっていいのか分からなくなった。 「俺が結婚を考える唯一の相手だと言ったら、それ以上誰も問わなくなったよ」 「紘登……」  このまま何も考えず、彼の胸に飛び込めたなら……。    そんなのできるわけないことぐらい、自分が一番よくわかっている。 「昼に撮影チームと合流するから、それまでは二人で少し園内を回ろう。行くぞ」  手を取られて、部屋の外へ出た。人の目があるから、そっと手を引っ込める。先に進む紘登が振り返った。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!