7.幸せと真実

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「せっかく二人きりなったのに、私たちこんな話ばかり。それなら、あの場所は?」 「あの場所?」  かつて二人で同じ時期に働いていた頃からある、園内ではそれほど知られていない場所を思い出した。 「はぁ、はぁ……。亜澄はドレス姿でスイスイ上るな」 「普段は千帆を抱えて走ることもあるから。体力だけはついてるの」  園内の端に位置する場所に建てられた塔にのぼっていた。目立たず、自力で上がらなくてはならないから、時間を気にしないお客さんだけが来る穴場スポットだった。塔の上には西洋の鐘があり、自由に鳴らすことができる。  二人で十分ほどかけて、やっと鐘まで辿り着いた。相変わらず、今の時間は誰も来ていないようだ。 「おぉ。ここは久しぶりに来たな」 「わぁ。やっぱりここからの眺めは最高だね」  昔、紘登と一緒に上って園内を見下ろしたことがあった。今も同じ塔がここに存在するのは嬉しいことだ。そして、あの頃にあったアトラクションやブースがなくなり、景色が変化しても、ワクワクするような感情は何ひとつ変わっていない。 「四年なんてあっという間だな。でも、亜澄がいない時間はいつも色がなかった。何もかもつまらなく感じて。……悪い。いつまでも未練がましく言ってると、嫌われるな」  紘登は遠くを見ながら呟いた。
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