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「さぁ、そろそろ降りて待ち合わせの場所へ行きましょう」
「そうだな。――亜澄」
突然引き寄せられて、紘登の腕の中に捕まった。
「紘……」
「少しだけこうさせて」
トクン、トクンと彼のすぐそばで胸が高鳴る。全身が熱くなって、頭がぼんやりした。紘登の背に手を伸ばし、指先に力を込めた。それを感じたのか、さらに強く引き寄せられてしまう。
「亜澄、聞きたいことがあるんだ」
声が紘登の胸の辺りから伝わり、何を伝えようとしているのか心配になった。
「さっきドレスを着て髪をアップした千帆ちゃんを見て、気づいた。耳の裏側にホクロがあるよね。俺も同じ場所にあることを知ってるか?」
心音が激しく乱れ、彼の声が遠くに響く。
「安西さんにも言われた。どことなく俺に似てるって。あの子は、俺たちの子どもじゃないのか?」
無言のまま、頭を強く横に振った。
「突然消えてしまったあの頃、誰かが亜澄に別れを迫った。だから、何も言わずに俺の前から……」
「ちっ、違うよ。そんなの!」
紘登を見上げて否定すると、すぐに優しい手が頬に添えられた。視線を捕えるために軽く上へと向けられる。動揺する私の瞳に、紘登の眼差しが優しい陽だまりのように降り注ぐ。
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