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アナウンスが流れ、撮影隊が持っていた照明の明かりが落とされた。紘登と彼を取り囲む数人のスーツを着た集団は、ステージの裏側へと消えていく。園内スタッフが私に近づき、声をかけてきた。
「守崎が改めてお礼を伝えたいとのことですので、一緒に事務室の方まで来ていただけますでしょうか?」
聞き慣れない紘登の苗字にドキリとする。CEOという肩書きの意味も知らないけれど、ただ偉い立場の人間だということは分かった。彼が本当に私の知る紘登だというのなら、今は会いたくはなかった。
千帆のことを聞かれたらどうしよう……。それに、夫の存在を聞かれてしまったら……。
「あっ。トト!!」
その時、やっと兄の存在を思い出し、スマホをチェックした。
ずっと私に連絡をよこしていたらしく、着信が十件以上入っている。急いで電話をかけてみると、兄は呆れたように声を上げた。
「おいっ、何やってんだ!! 連絡取れねーし。チケット取って、ずーっと待ってんだぞ!」
「ごめん。そ、それがね……。あの、急いで事務室へ来てくれない?」
今はこの状況を紘登にどうごまかして話そうか、そればかりで、兄に事情を詳しく説明している暇はなかった。
スタッフに家族の存在を知らせると、すぐに案内すると約束してくれて、安堵した。
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