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事務室はシャイニーワールドの入場ゲートを出て、その隣にあるオフィスビルの中にあるらしい。歩いている途中、千帆が私の手を引っ張っる。
「ママ―! ドレスまだぁ?」
口をとがらせて千帆が尋ねてくる。
「ごめん千帆、お話が済んだらね」
「そうよねぇ。さっきから大人のご用ばかりだから。でも安心して、これから何度もここへ通うから」
スタッフの女性が千帆に優しく語りかけてくる。
「そうなの⁉ またここに来るの?」
千帆は嬉しそうな表情で返した。
案内された建物は、テーマパークからは見えない位置にあり、広々とした立派なオフィスビルだった。エントランスを入り、通されたのは二十帖ほどの応接室だった。黒の皮張りソファーとテーブルが置かれ、そこへ座るよう指示される。
二人で腰かけて数分後、ドアが静かに開いた。視線を上げると、目の前に立っていたのは、先ほどよりも穏やかな表情をした紘登だった。彼は昔と変わらず、柔らかな笑顔で私の顔を見つめている。一瞬視線がぶつかり、鼓動が激しくなって目を逸らした。
ドアを閉めると、室内には私たちだけになった。紘登は向かい合わせのソファーに座る。何を話していいか分からず、思わず視線をテーブルに落とした。
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