1.思い出の場所

9/11

1789人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
「改めて、本日はおめでとうございます。CM撮影にもご協力いただき、感謝いたします」 「おじさん、だれ?」  ものおじしない千帆が堂々と尋ねた。紘登はニッコリと微笑むと、懐から一枚の名刺を取り出す。 「千帆ちゃんだね。私はこういう者だ。ここに魔法をかけているお手伝いをしている」    そう聞いた瞬間、千帆の目が大きく開いた。 「まほう……。まほうつかいのひと?」 「そうだよ。ここでは誰もが素敵な体験を出来るだろう? 千帆ちゃんも、ドレスに着替えてお手伝いして欲しい。いいかな?」 「うん!」  千帆は大きく頷き、目を輝かせた。紘登はスマホで誰かに連絡を入れると、すぐにこちらへ向き直る。  すぐにドアがノックされ、パステルイエローの制服を着た女性が千帆の隣へやって来た。 「さあ、私と一緒に行ってプリンセスになりましょう」 「スタッフが千帆ちゃんをプリンセスハウスへ連れて行ってくれるから、安心して任せてくれ」  千帆は楽しそうに席を立つ。その様子にこちらも安堵していると、千帆はこちらに手を振ってスタッフとドアの向こうへ消えた。扉が閉まると、再び静かになり、向かい合わせのソファーに座る私たちの間に沈黙が流れた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1789人が本棚に入れています
本棚に追加