マジックアワーが消えるまで

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マジックアワーが消えるまで

 まだ日が昇る前の朝、辺りはまだ真っ暗な砂浜に座り海を見つめていた。寄せては返す波の音に、何かを求めて鳴く鴎の声に、何一つ希望なんて見いだせなかった。  これからどうする。自分自身に何度もそう問いかけては白い砂を掬い上げて零す。泣けたらきっと楽になるのに、泣けない自分にイライラして悲しくなった。やり場のない怒りと未知への不安に、この海に飛び込んでしまえば楽になれるって馬鹿な答えに何度も行き着いた。  本当は分かってる。どうしようもないことはこの世界に私が知ること以上に沢山あって、そういうものから見たら私に起きた出来事なんてきっとちっぽけなことだって。  空はどこまでも続いてるけど空の青さは永遠に続かない。この地球だっていつかは消えてなくなる。それがずっと遠い未来だとしても必ず訪れる。だから限りある地球から生まれてきた私たち人間の命に与えられた時間が短いのは仕方ないことだ。  今日世界で一番大切な人を亡くした。私にとっては未来を変えてしまうほど大きな出来事だった。でもそれだって地球の歴史の中ではちっぽけで当たり前で、やっぱり『仕方ないこと』だ。  仕方ないから受け入れる?ただ黙って? 私はそんなに賢くないし、良い子にもなりたくない。仕方なくない。許せない。何で。どうして。受け入れられるわけない。いまの全てを否定したい。悪あがきだって分かってるけど受け入れたくない。堂々巡りだ。  マジックアワーの時間に入り空が少しずつ変化を遂げていく。深かった黒が薄まって、濃い青さに変わっていく。さらに水と白の絵の具を足したみたいに、優しい青になってピンク色との層を作り出した。心の中でシャッターを何度も切る。おじいちゃんと初めてこの海で遊んだ日、おじいちゃんが私の写真を沢山撮ってくれたように。  この世のものとは思えない美しい空が創り出した光景をただじっと見つめていたら、涙が溢れて止まらなくなった。さっきまではあんなに泣きたくても泣けなかったのが嘘みたいだ。優しかったおじいちゃんは本当にもういない。二度と会えない。私を救い上げてくれるしわくちゃな手は現れてはくれない。 「あのー」  不意に後ろから男の人の声がした。降り向こうとして止めた。涙と鼻水まみれな悲惨な顔を見られたくない。「はい」と前を向いたまま返事をした。 「大丈夫?」  優しそうに聞こえる、少しだけ低い耳に心地良い落ち着く声。気持ちが弱ってるとそう聞こえるのだけなのかもしれないけど。 「大丈夫です」 「ならいいけど。泣いてるみたいに見えたから」 「いえ。本当に大丈夫なので」 顔の前で否定の意味を込めて手を振る。 「そっか。ごめんね。変なこと言って。俺、普段からお節介だー、ってよく言われるんだ。だから気にしないで」 「あ、はい」 「じゃあ」  砂を踏む音が段々遠くなって、恐る恐る振り返ってみた。もうその人は私のことなんか見ていなくて、その視線はカメラのファインダー越しに目の前に広がる空を見つめていた。  マジックアワーを撮影しに海へ来る人は時々いる。きっとこの人もそうなんだろう。  今この広い砂浜に一人じゃないことに安心感を覚える。全然知らない人との少し離れた距離感に安心するなんて変だけど、その人が私なんかもう眼中にない様子で夢中でシャッターを切る姿に、見入ってしまう自分がいた。

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