キマイラたちは麗らかに

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 遊佐先生は、メガネを人差し指で押し戻しながら、 「それは、群れに同調しない、群れと別行動をすると言う事で、万が一その群れ、その種が全滅するなどと言う事態に陥ってしまっても、その、単独行動をとっていた者が、種を存続させる役目を担うと言う訳です。まぁ、今更ヒトが全滅するなんて事はありえませんし、そもそもヒトなどは、皆ひねくれているのでね、群れのためにと言うような大局的見地などではないですが。ヒトは看過出来ない何かしらを抱え込んで生きていると、どうかなってしまう前に、周囲と距離をおこうとか、関わらないようにしようとかね。まぁ、回避行動をとってしまうと言う事でしょうか」  と、多少自嘲気味に、そんな事を言った。  加奈子は、遊佐先生の話しを黙って聞いていた。はっきり言ってよく意味が分からなかった。  ただ、いつでも自由気ままに過ごしているように見える遊佐先生でも、愚痴りたくなるような“何か”を隠しているのだろうかと、ぼんやりと考えていただけだった。  その日の夜、加奈子は夢を見た。  みんな、同じ方向に行ってしまうのに、自分はそれに背を向ける。それで何かが変わると期待しているのだ。でもそれは何かいけない事のようで、後ろめたいような蟠りが、胸の真ん中辺りに重く居座るのだ。せめて一人ぐらいは、自分と同じ方向に歩く誰かがいないだろうかと、ぼんやりと佇んでいるだけの自分が居た。
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