死後の仕事

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 厄介なことに、死んだあと自然にこの場所まで来ることができるのは、『未練がない者』だけなのだ。そんなの大往生で死んだごく一部だ。  大抵の者は未練を残して死ぬ。そして、その未練に引っ張られ、天に昇ることができない。  寿命を残して“ここ”に来た者の大体に与えられるのが、『魂』の案内人としての仕事だ。  “死”が近い『魂』の情報が、“上”から伝えられて、案内人はその魂を迎えにいく。  そいつが“ここ”に来たのは、1年ほど前。いつも通り、案内人が迎えには行ったのだが、そいつは自然と上がってきた。ブラック企業で散々こき使われ、身体を壊し、長時間労働で家庭を顧みる暇もなく、ついには離婚を切り出され、人生を苦に自殺した中年の男だった。  当然寿命はまだ先なわけだから、慣例通り仕事を割り振ろうとした。しかし、彼は抵抗した。 「もう働きたくなくて死んだのに、死んでまで働かされるなんて……お前らは鬼か? 悪魔か? ここは地獄か!?」  ……まあ、言い分もわからなくはない。彼の上司となるはずだった者が、懇切丁寧に説明したが、彼の拒絶姿勢は変わらなかった。  それならそれで、寿命を迎えるまで、この場所でダラダラと過ごす分には別に構わなかった。実際、寿命まで残り数年だったが病で死んでしまった者などは、そういう風に過ごすことを選ぶ者もいた。大体はやることもなく、暇すぎて仕事に加わるのだが。  しかし彼は、『強制労働反対! 強制成仏反対!』などと言い出し、“上”からの情報を盗み、案内人たちの邪魔をし始めた。先回りして、『魂』を隠してしまうのだ。  要するに、未練ある者を無理矢理連れてきて、輪廻転生の輪に加えたり、労働に従事させるなんてナンセンスだということらしい。本人の意思でこの場所に昇るべきだというのだ。
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