0人が本棚に入れています
本棚に追加
「今回の対象者は、92歳の女性。寿命での死亡、だったな」
キリトは、アカツキの今回の対象者の情報を確認する。
「小さなアパートで独り暮らしでしたね。旦那さんに先立たれて……」
アカツキは、見てきた部屋の様子を思い出しながら話す。
「娘が一人、孫が二人。離れて暮らしているがそこそこ交流はあったようだな。息子も一人いたが、幼少期に事故で他界……。現世への未練はあまり無さそうだがなぁ」
キリトがそう続けた。やつらに連れて行かれて、そのままついていったなら、よっぽどの未練があると思ったのだが、それらしき情報が見当たらない。
「キリトさん、俺、どうしましょう?」
対象者の情報を確認しているキリトに、アカツキは少し焦り気味に今後の対応について促した。
「ん? ああ……仕事ちょっと減らすから、仕事しつつ、彼女の居場所も探してくれ。本当にやつらについて行ったんなら、現状俺達ができることは無いに等しいが、ただ辺りをさまよっていて、お前が見落としただけなら早く連れてきてやらんとな……現世にとどまっていたって、できることなんかないんだから。全く、お前が5分前行動さえしていればこんなことには……」
「わかりました」
キリトの言葉に棘を感じ、さらにこのまま小言が続く気配を感じ、アカツキはさっと返事をして、その場をあとにした。
「ったく……」
アカツキの姿を見送り、なんだか釈然としないキリトは、再びいなくなった対象者の情報を確認する。
「……対象者の名は、北見さとえ。息子の名は豊。……北見豊。ん? どっかで聞いた気が……」
キリトの呟きを聞いていた者は、誰もいない。
最初のコメントを投稿しよう!