夜叉鬼の鈴

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鈴は座り込んだまま男の言葉の意味を考える。 さすがにこの中に入れられていた間、男達の口が軽いおかげで色々と話が聞けた。 自分があやかしだと思われていたこと、人間だとわかったがあやかしが陰陽師を潰すための餌として戻したのではないかなど。 ただ純粋に話を聞いて欲しかっただけの鈴は、自分の甘さをようやく理解した。 アスラが怒るのも無理は無い。 あれだけ足が治るまでと優しくしてくれたのに、あっけなく元の場所に帰ると言ったのだ。 アスラは無駄だと笑ったのにそれを聞かなかったのは自分。 また会いたいと思っていたのにもう二度と会えないかもしれない。 名前を呼びたい。 だけどその名を呼んでしまえば、何度も鬼の名を吐けと詰め寄られた時必死に抵抗した意味が無くなってしまう。 誰が聞き耳を立てているのかわからない。 せめて心の中で名前を呼ぶことしか出来ないのは苦痛だった。 あの金の髪に触れたい。 子供のように笑う顔が見たい。 また、会いたい。 涙を流してはいけない、それはやってはだめだ。 鈴は部屋の隅で膝を抱え俯いた。
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