夜叉鬼の鈴

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魚を初めて食べたのだろうかと思っていると、ややあって鈴が口を開いた。 「温かい食事は久方ぶりで」 鈴も自分が泣いていることに気付かなかった。 着物を濡らしてはいけないと、必死に手で目をこする。 温かい食事は母がいた頃以来。 藤谷家に引き取られてからは、使用人達と同じかその扱い以下で冷めた食事しか口にしていなかった。 「そんなに目をこするな」 気がつけばすぐ横に男がいて、そっと柔らかい布で涙を拭う。 男、アスラも自分で何故そうしているかはわからない。 だが最初に出会った時から、この子供は自分の元に持ってこようと決めた。 おそらく一人で必死に抗う姿と、潔く散ろうとした姿に興味を引かれたのだろう。 陰陽師の子供があんな森に一人でいることで大抵の想像はついた。 そんなことをされおどろいている鈴は、目がこぼれんばかりに大きく見開いてアスラを見上げる。 「我が名はアスラ。 お前の名は?」 「藤谷鈴、です」 「鈴、か。 良い名だ」 アスラは歯を見せて笑う。 綺麗な顔なのに年相応にも見える無邪気な表情で、鈴は肩の力が抜けた。
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