夜叉鬼の鈴

2/65
173人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「お前はそれでも私の血を引いているのか。 あの女は姿だけは良かったがそれすらもお前は受け継いではおらぬ。 もう下女にでもした方が早いか」 鈴は頭を下げたまま、実の父親の言葉を気が遠くなるよな心持ちで聞いていた。 父親のいるこの大きな屋敷に来て半年も経っていない。 そもそもそんな父親と鈴が会うのもこれを含めまだ二、三度ほど。 ここに来る以前、鈴と母は小さな町の隅で貧しくも慎ましやかに生きていたが、母は病で亡くなった。 そこに母親からは昔に亡くなったと聞かされていた父親が突然現れた。 訳のわからない鈴を無理矢理藤谷家に連れて行き、陰陽師として学べと言い部下に鈴を預けたままで同じ屋敷にいるはずの父親と会うことは無かった。 間もなく、藤谷家の娘一人が亡くなりその穴埋めとして鈴が連れてこられたことを鈴は知った。 藤谷家の子供であれば陰陽師として優秀で当然。 鈴は必死に勉強し最低限の術は覚えたはずが、正しく術を使ってもその効力は僅かだけ。 既に家の者達からは藤谷家の子供では無いのでは、数あわせに拾ってきたのではという話も出てきて、次郎としては次期当主である以上自分の顔に泥を塗るような娘が腹立たしくて仕方が無い。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!