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「鈴」
苛立ちを隠そうともしない低い次郎の声に、まだ頭を下げたままの鈴の肩が小さく震え、はい、と答える。
「今すぐ裏山に行き、あやかしを一つ滅してこい。
その証しを持ち帰るまで帰ってくるとは許さぬ」
「かしこまりました」
鈴は昨日の朝からろくに食べ物を口にしていない。
再度深く頭を下げ青白い顔で立ち上がると、嘲笑の中を通って廊下に出る。
「さぁ夕餉の時間だ」
次郎の声に周囲は腹が減ったと騒ぎ立てている。
そんな明るい場所から廊下を進み、使用人の使う勝手口にある自分の古びた草履を履いて外に出た。
大きな屋敷の裏には鬱蒼とした山。
既に外は薄暗い。
鈴は深い地獄へと誘いそうなその森へと入っていった。
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