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夜。
鈴はどれくらいかわからないほど久しぶりに本邸の廊下を歩いていた。
ずっと歩いていなかったからか足取りが重い。
それともこの沢山着付けられたせいだろうか。
鈴の着物は派手なもので、アスラが着せていたものとは全く違う。
なんとも落ち着かない気持ちながら鈴はある部屋の前で座ると、中から次郎が入れと声をかけた。
あぁやはりお父様に会えるのだ。
やっとまた話の出来る聞ける機会が。
そう思って障子を開ければ、そこには次郎と見知らぬ男が座っていた。
「鈴、お前はその方の隣へ」
男は現れた娘を見て思わず口を小さく開けた。
なんと美しい。
これは他の者達がほしがるのも無理は無い。
鈴は状況がわからないまま次郎の言うように男の隣に座った。
「名はなんというのだ?」
男が嬉しそうに声をかけるので、
「鈴と申します」
と答えれば、一層男は鼻の下を伸ばす。
「鈴か。
良い名だ」
ふとアスラがそんなことを言ったのを思い出した。
あのときはとても嬉しかったのに、この男に呼ばれるのは何故かぞっとする。
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