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鈴は呪符を手に持ち、石や木や葉で覆われた森の中を必死に走っていた。
「ひひ、人の子じゃ」
「捨てられたのだろうて」
「ならば食うても構うまい」
至る所から声がし、妖気を感じるものの鈴には見えない。
突然背中に痛みが走り、つんのめるように顔から地面に叩きつけられた。
背中を鞭のような何かで叩かれたせいだった。
もうあやかしはすぐ側だ。
このままでは殺される。
鈴はふらつきそうになりながら立ち上がり、膝に力を入れ再度走り出す。
「もう少し遊ぶか」
「弱ってからでは美味くなかろう」
近くに声がしてすぐに呪符を使う。
術を唱えても、一瞬向こうは怯むだけで時間稼ぎにもならない。
「助けて欲しいか?」
突然、頭上から男の声がした。
それも若い男の声。
強いその声だけで身体がビリッとした。
鈴は気をとられそうになったが、後ろを追いかけてくるあやかしから逃げるのが先決だ。
「助けて欲しいか」
再度の問いかけに、鈴は口を結び首を横に振った。
おそらくこれもあやかしの声。
そうやって気を許してしまえば、敵はそこを狙う。
あやかしお決まりのやり方だ。
だから頷いてはならない、どんなに助けて欲しくとも。
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