隼一の友人との食事

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「僕はベータのフリをすることを無理だとは思ってなかったです。親はオメガなんだから仕事なんて辞めて早く結婚しろってうるさいんですけどね。僕的には仕事は大変でも自分の意思でやれることだから嬉しくて。だけど、これじゃだめなんでしょうか。最近よくわからなくなってきました」  こんなことを人に相談したのは初めてだった。このまま七月の誕生日を迎えるのが嫌なのに、自分だけでは思考がまとまらない。 「そうだなぁ。俺は『オメガだから不幸だ』と今は思ってないし、ベータやアルファの人にもつらいことはあるからね。だけど、そんな綺麗事じゃ済ませられないようなつらい目に遭ってるオメガもたくさんいるのは事実だ」 「ええ……」 「俺が勝手に思ってるだけなんだけど、夕希くんが素直になりさえすれば、きっとオメガである君を心から愛してくれるパートナーが現れて幸せになれるような気がするんだ」 「パートナー……ですか」  そう聞いてまず、北山の見合い写真とプレゼントされたネックガードが頭をよぎった。そして夕希が表情を曇らせるのを見て美耶が言う。 「今すぐには受け入れ難いことかもしれない。でも、自分の性に(あらが)い続けるのってつらいでしょ? 自分の身体や心にあまり嘘をつかないほうが良い気がする」 「嘘……ですか」 ――つまり自分がベータだと嘘を付いていること? 「うーん。気づかないうちに心の中で嘘ついてたりすることってない? なんていうか、夕希くんって昔の俺と似たものを感じるんだよね。失礼なこと言うけど余裕が無さそうに見えるというか……人のために何かを我慢して頑張りすぎてたりしない? もう少し自分の気持ちをゆっくり考えてみたらいいんじゃないかな」  だけど夕希にはもうゆっくり考える時間など無い。このまま濁流(だくりゅう)に飲み込まれるようにしてあの写真の男性(アルファ)と結婚し、出産し、兄のように暗い表情で暮らすことになるのだろう。  でも、欲を言えば今目の前にいる美耶のように輝く笑顔を失いたくはない。 「ゆっくり考えたら僕にも余裕ができるんでしょうか」 「できるよきっと」 「僕、オメガだけどコラムニストになりたいんです。結婚してからも続けられる仕事をしたくて」  夕希がそう言うと彼は微笑んだ。 「いいじゃない。応援するよ」 「あの……また相談してもいいですか?」 「もちろん。ほら、連絡先交換しようよ。一緒にビュッフェにも行かないといけないんだし」 「はい!」  今までベータとして会社員をしていることが最善だと思っていた。だけどそうじゃないのかもしれない。最近隼一と関わるようになり、新しい交友関係が増えたせいか考え方が変わりつつあった。 ―――――――――――― いつもご覧いただきありがとうございます。 今回は過去作『嫌われ者の美人Ωが不妊発覚で婚約破棄され運命の番に嫁ぐまで』の主人公美耶と礼央と朔がちょっとだけ出ました♡ 辛い境遇を乗り越えたΩの先輩美耶が夕希に助言するポジションとして後半もまた出てくるのでもしよければ最後までご覧ください。 また、本作はアルファポリスのBL小説大賞に『僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです』というタイトルにて参加中です。 もしアルファさんにアカウントお持ちでしたら投票していただけると嬉しいです♡
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