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雪も降らないこの地方で、珍しくその日は氷点下まで下がり、なのに奴も、私も薄着で今にも枯れそうな桜の下で座り込んでいた。
『春になったら咲くかな』
私の横に座りながら、奴はそんなことを言ったと思う。
私は奴の顔を見上げながら咲かないだろう、と答えたと思う。
事実、その桜は随分前から枯れていて、何年も花はおろか蕾もつけなかった。
私の否定に関わらず、奴は咲くよね、と笑っていた。
奴は、嘘つきだった。
『この桜が咲くまで、生きていようか。』
ねぇ、そうしようか。
奴は私がうんともすんとも言わないうちに、無理矢理部屋に連れて行き、そして自分も死ぬことをやめた。
その道中で、奴が小説家であることを、奴の口から聞いた。
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