桜の下で死んだ

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こうして、文字を紡ぐ私は今、彼と過ごした部屋に座っている。 奴の部屋は汚かった。 否、今でも汚い。 見渡す限り、ゴミしかない。 所有者がいなくなったというのに、奴がいた痕跡だけは色濃く残っている1LDK。 フローリングの床の上には錠剤が散らばり、潰された煙草の空き箱が転がる。 洗濯物は取り込まれた状態のまま。 小説家、と言っていたくせに奴は一冊も本を持っていない。 本棚は部屋の隅で眠ったまま。 同じ様に開かれたままのパソコンは、長い間使われておらず埃を被っている。 一つ、くしゃみをする。 風邪引いたの、と声をかけたそんな先生はもういない。 気に入らない結末は再試行できないようで。 先生は死んだ。 その軸は変わらない。 別にそれに寂しさや、不安や、悲しみなど。 そんな薄っぺらい感情など持ち合わせてはいないけれど、ただ少しふと思う。 奴は地獄でも煙草を吸っているのだろうか、と。 だとしたら、この現世に煙が浮かんできてしまうのではないか、と。 せいぜい1日一箱に収めておくよう、言っておくんだった。
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