初恋

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だけど、どうしてこんな大企業の社長さんが財布と携帯を忘れて駅で困るような状況になるんだろう 「春宮さん、社長なのに電車なんて乗るんですね。それに…SPの方とか秘書さんとかは近くにいないんですか?」 「昨日は私用でしたからね。それに僕はあまり車は好きじゃないんですよ」 「どうしてですか?電車の方が混みそうなのに…」 「車酔いするんですよ。それに、電車の窓から見える景色が好きなんです…昔から」 「なるほど…それでなんですね」 「和島さんは車の方が好きですか?」 「はい。満員電車が苦手なので…」 「女性は特に気を付けなければいけませんしね…」 「…はい」 「そういえば、和島さんは今高校何年生ですか?」 「あ、三年です」 「じゃあ来年は大学生なんですか」 「いえ…私は…就職します」 「あ…すみません」 「…いえ、大丈夫です!」 少し空気が重くなってしまった 「もう就職先は決まってたりしますか…?」 「え?いえ、こないだ面接だったんですけど…見事に撃沈しちゃいまして、まだ決まってません…」 聞こえるかもわからないくらいの弱々しい声で私は答えた すると 「そうなんですか。良ければうちにきますか?」 「はい… ええ!!!?」 店中に響き渡った私の声で、周囲の人がこちらを見ていた 「ど、どういう意味ですか?!」 「清彩蔵で働きませんか?勿論就業場所は東京です。流石に部署までは選べませんが…」 私は唖然として言葉が出なかった もし、そんな事が可能なら夢みたいな話だ 就活中の自分にとってこれ以上有り難い話はない 「でも…そんなコネみたいな入社ありなんでしょうか?」 「まあ一応就職試験は受けてもらいます。普通の就職試験と同じようにしてもらえば大丈夫ですよ。あくまでも儀式的なものです」 「よろしくお願いします!」 業務内容も給料も勤務日数も訊かずに私は即答した 会社の大きさだけで自分の中では大きすぎる決め手だった 「ハハ、でも色々希望にそぐわない点はあるかもしれませんので、詳しい点は書類にして自宅に送らせてもらいます。それで改めて決めていただければ」 「大丈夫です!全然なんでもやります!!」 「まあまあ。その心意気だけで採用の価値がありますよ!それに人間性も分かっていますしね」 …私携帯貸しただけなんだけどな 「昨日、結構断られてたんですよ。実は」 見透かされていたのか、春宮さんはそう言った 「そ、そうだったんですね…」 ちょっと怪しかったもんな…私も断るところだったし… 「話を聞いてくれる人すら少ないですから…嬉しかったです」 「いえ…そんな…」 なんだか疑っていた自分が恥ずかしくなってきた
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