初恋

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「お待たせしました」 タイミングを見計らったように、店員さんがコーヒーとフレンチトーストを運んできてくれた 「さ!冷めない内に先に食べましょうか」 「はい!いただきます!」 たっぷりの粉砂糖とメープルシロップがかかったふわふわのフレンチトーストを見て思わず涎が垂れそうになる 人目も憚らず大きな一口を頬張ると、口の中が火傷するところだった 「ははっ、豪快ですね」 「あ、熱いです…」 「誰かと食べるとまた一段と美味しいですよね」 …とてもわかる気がする お父さんは遅くまで働いてくれているから 一緒に食事が出来る日は少ない だからこうやって誰かと向かい合って食事できる事は とても安心感に満ちていく…それが例え昨日今日知り合った人だとしても ーーー 「すっごく美味しかったです。ごちそうさまでした」 店を出て私は春宮さんに深くお辞儀した 「口に合って良かったです。では、追って書類を送りますね」 店を出る前に連絡先を交換し、春宮さんは近日中に試験の書類を送付すると伝えてくれた 「あの…ありがとうございます よろしくお願いします!!」 「こちらこそ。じゃあまた」 そう言って会釈しながら春宮さんは背を向けて去ってゆく 私は一人、舞い上がった気持ちで駅の階段を駆け上る 狡いと思われるかもしれないけれど、このチャンスを逃せる程今の私に余裕はない 折角貰ったチャンス!絶対に失望はさせない 採って良かったと思われるようにきっちり頑張るんだ 期待と希望に胸を膨らませながらやってきた電車に飛び乗る そしてふと、一つの疑問が浮かんだ ーー働けるようになったら…春宮さんには会えるのかな やっぱり社長さんだし、滅多には会えないよね…? なんかちょっと…ーー 胸に巣食うこの気持ちの正体を探らぬまま 私はさっき食べたフレンチトーストと春宮さんの事を思い起こし、帰路についた
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